5. 始まりと終わり

━ 忍者への一歩を踏み出した少年の挫折とは ━

遂に少年のもとに届いた「忍法講座」全4巻。
そのテキストはどうやら「火水土風」の順に読むものらしい。
赤い表紙の「火の巻」を読み進める私。
いよいよ忍者への第一歩を踏み出すのである。

~ 跳躍力の鍛錬 ~

1.竹の種を用意して それを畑などに植えます
2.その竹を育てます
3.毎日 その竹を飛び越えます
4.成長した竹を飛び越えられるまでそれを続けます
5.その跳躍力が忍者には 必 要 で す

そのページには4コママンガのように写真が縦に並んでおり最終的には、
2メートルはあろうかと思われる竹を飛び越える筆者の勇姿が載っていた。

…竹。 …畑? うーんと…。
必要っていわれてもなぁ…。
まぁいいや、とりあえず次も読んでみよう。

~ 瞬発力・持久力の鍛錬 ~

1. 野原など 十分に走る事が可能な広い場所へ赴く
2. 腰に3M程の長い布を巻き付ける
3. その布が地面につかないように走り続ける
4. 少しずつ その布を長くしていく(最終的には10M程)
5. その瞬発力・持久力が忍者には 必 要 で す

やはり、そのページにも写真が並んでいる。
最後の写真にいたっては、布が長過ぎるので
全体像を捉える為にかなり遠くから撮影されている。
人物が小さすぎてよく見えない。

んー。 どこだよその野原ってのは。
てか、布も買わなきゃならないのかよ。
この際だからひととおり読んでみるか。

その次のページには柔軟性の鍛錬。
いきなり180度開脚しちゃってますよ。
また「必要です」って書いてますよ。

どんどん読み進めていくと武器の扱い方なんぞも書いてある。
手裏剣の修行をするためには「畳が必要です」
鎌を使うには「広くて人の来ない場所が必要です」

…………

整理してみましょう。

「忍法講座に必要な物」(の一部)

・竹の種
・長い布(3~10M)
・手裏剣
・鎌
・畳(数枚)
・畑
・走り回れる広い場所
・人の来ない広い場所

ム リ で す 。

さすがに今度ばかりは
「ママ、ぼく畳が欲しいんだ」とは言えませんでした。
「あら、いいわね。うふふ」なんて答えられた日には
嫌でもやらなきゃならないハメになってしまいます。
そして「忍法講座」はあっさりと単なる読み物に成り下がり
少年ジャンプと共に本棚に並ぶ事になったのでございました。

~後日談~

母「あら、そういえば忍者はどうなったの?」
私「うん、もう忍者の時代は終わったみたいだから」

━ 完 ━

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