【動画x2】”Line 6 HX STOMP”レビュー w/Shuriken Variax
- 2018-12-29 (土)
フラッグシップ機の機能と音質をコンパクトに凝縮
2018年後半最大級の話題作“Line 6 HX STOMP”をレビューします。
“HX STOMP”とは、同社のフラッグシップ機である“Helix”の機能と音質を継承しコンパクトに仕上げたモデルです。
この度は”HX STOMP”を紹介する動画2本を制作しました。
まずは”HX STOMP”の機能を満載したプロモーション・ムービー的な1本。Line 6製モデリング・ギターの最新モデル“Shuriken Variax”と組み合わせ、この2つの機材だけでドラム以外の全パートの音を作りました。
楽曲は既に公開済みの”HX Effects”用に作った曲を流用しました。前回の”HX Effects”はエフェクターとしてのみ使用しましたが、今回の”HX STOMP”は省サイズながらアンプ・モデリングを搭載しているのでアンプ&エフェクターとして総合的な音作りに活用しています。
後でこの動画に基づいて詳しく解説します。
Line 6 | HX STOMP [feat. Shuriken Variax]
もう1本の動画はエフェクターブックの記事連動企画です。
“HX STOMP”内蔵エフェクトをカテゴリー別に試し、それぞれのクオリティを確認出来るような内容になっております。
Line 6 x The Effector Book | HX Stomp【エフェクターブックVol.42記事連動動画】
こちらの動画の解説はエフェクターブックに詳しく書いてありますので、是非ご参照ください。
THE EFFECTOR BOOK Vol.42<シンコー・ミュージック・ムック>
解説
今回は最初に紹介した動画を題材に、そこでの設定・音色について解説します。
収録の際は”Shuriken Variax”から”HX STOMP”へ繋ぎ、ステレオ・アウトプットからオーディオ・インターフェースへ接続という超シンプルなシステムにしました。”HX STOMP”はUSB接続でオーディオ・インターフェースとしても機能しますが、今回その機能は使用していません。
この動画では”HX STOMP”の外部エフェクト・ループは使用していません。
歪みや空間処理など、全てのエフェクトは”HX STOMP”のみによるものです。
エクスプレッション・ペダルには純正の“Mission Engineering SP1-L6H”を使用しています。
Basic Drive Set [演奏箇所:0:24〜1:09]
Guitar : Normal PU
Amp+Cab : Placater Dirty
Wah : Weeper
Distortion : Scream 808
Delay : Ping Pong
Reverb : Room
まずは使用頻度が高そうな、バッキング&リードに使える歪んだサウンドを作ってみました。
ギターの”Shuriken Variax”は様々な種類のギター・モデリング・サウンドを内蔵していますが、ここではノーマルなマグネティック・ピックアップを使用しています。
最初はアンプとルーム・リヴァーブのみを使ったシンプルな設定です。アンプは”Friedman BE-100″ (BE/HBEチャンネル)を基にしたモデル。バイト感が心地良いドライブ・サウンドです。
続いて”Ibanez TS808″を基にしたオーバードライブをオンにしました。基本的な音色は変わりませんが、よりミッドレンジにフォーカスされたトーンになります。
リードではピンポン・ディレイをかけて、左右にディレイが広がるようにしました。特に音の切れ間で効果的に響きます。
更に”Arbiter Cry Baby”を基にしたワウを踏んでいます。
このセットだけでもライブをこなせそうな内容だと思います。なにより歪みのクオリティの高さを感じさせます。
Natural Clean [1:10〜1:32]
Guitar : Modeling : Stratocaster Neck
Amp+Cab : US Double Nrm
Dynamics : Boost Comp
Delay : Bucket Brigade
Reverb : ’63 Spring
続いてクリーン・サウンドです。ギターはストラトのネック・ピックアップのモデリング・サウンドです。
アンプは”Fender Twin Reverb” (ノーマルチャンネル)を基にしたモデル。
動画ではクレジットされていませんが、”MXR Micro Amp”を基にしたモデルでブースト&コンプレッションをかけています。
そこにアナログ・ディレイとスプリング・リヴァーブを加えて仕上げました。
Line 6流のヴィンテージ・トーンという趣だと思います。個人的には”POD HD”時代からこのようなアンプ&エフェクトを使っていたので馴染み深い質感です。
Crunch Tone [1:33〜1:54]
Guitar : Modeling : Stratocaster Neck
Amp+Cab : Matchstick Jump
Distortion : Minotaur
Reverb : ’63 Spring
先程のトーンより少し歪みが乗った、クランチ・サウンドです。ギターは同様のモデルを使いました。
アンプは”Matchless DC30″のチャンネル1&2をリンクさせたモデルです。
そこに”Klon Centaur”を基にしたオーバードライブでブーストしています。
クランチ・サウンドは、そのデジタル機材がいかにアナログ感を再現しているかが良く表れる領域だと思います。
この枯れた味わいからLine 6モデリングのクオリティを感じていただけるでしょうか。
Variax Acoustic [1:55〜2:16]
Guitar : Modeling : Gibson J-200
EQ : Simple EQ
Modulation : Trinity Chorus
Delay : Dual Delay
Reverb : Ganymede
Dynamics : LA Studio Comp
“Shuriken Variax”のアコースティック・モデリング・サウンドを用いて、エレクトロニック・アコースティック・トーンを作ってみました。
“Dytronics Tri-Stereo Chorus”を基にしたコーラスが清涼感を与えます。
左右で違うタイムに設定したディレイをかけて音場の動きを演出し、幻想的な響きのリヴァーブを加えました。
更に動画クレジットにはありませんが、最前段にEQでトーン補正し、最後段に”Teletronix LA-2A”を基にしたコンプレッサーで音の粒を揃えています。
勿論通常のエレアコを繋いでも同等の音作りが可能です。アコースティック用マルチ・エフェクターとしても十分な機能を備えています。
Variax Bass [2:17〜2:39]
Guitar : Modeling : JTV89 (Octave Down)
Amp+Cab : Cali Bass
Distortion : Obsidian 7000
Distortion : Clawthorn Drive
“HX STOMP”にはベース用のアンプ/エフェクトも豊富に揃っています。
ここでは”Shuriken Variax”の機能であるオルタネート・チューニングを用いて1オクターヴ分チューニングを下げ、ベースとして使ってみました。
アンプは”MESA/Boogie M9 Carbine”を基にしたモデルです。
最初のサウンドでは”Darkglass Electronics Microtubes B7K Ultra”を基にしたモデルを組み合わせて音作りしました。この動画全体のベース・サウンドも基本的にこの設定で弾いています。
そしてこのパートの後半では”Wounded Paw Battering Ram”を基にしたファズ系モデルを加え、更に歪ませてみました。
低域の強さや音圧もベース用として十分に使えると思います。
Snapshots Mode [2:40〜3:01]
Guitar : Normal PU
Amp+Cab : Jazz Rivet 120
Delay : Simple Delay
Amp+Cab : ANGL Meteor
Modulation : Double Take
Dynamics : LA Studio Comp
Helix系モデルが備える機能「スナップショット」を使ってみました。
スナップショットとは1つのプリセット内に3つの異なる設定を保存し、瞬時に切り替えられる機能です。通常プリセット切り替え時には音切れが避けられませんが、このスナップショットを使えば音切れなくスムーズに音色を変える事が可能です。
まず信号を2系統に分け、片方には”Roland JC-120″を基にしたアンプにディレイを組み合わせてクリーン・サウンドを作りました。
そしてもう片方は”ENGL Fireball 100″を基にしたアンプで歪んだトーンにし、ダブリング的な効果が得られるエフェクトを加えて厚みを出しました。
それら両方の信号をLA-2A系コンプレッサーに送り、ひとつの音色として統一感を出しています。
スナップショット#1ではクリーン・サウンドのみ、#2では歪みのみ、#3では双方が同時に鳴る設定にしました。それぞれの音色が音切れなく切り替わるのがわかると思います。
更に終盤ではエクスプレッション・ペダル(EXP1モード)をディレイのフィードバックに割り当て、踏み込んだ際に発振する設定にしました。そしてエクスプレッション・ペダルの爪先のスイッチをオンにするとEXP2モードに切り替わり、そちらにはディレイ・タイムを割り当てました。踵側に倒すとタイムが短くなって発振音のピッチが高くなるというトリックも入れてみました。
“HX STOMP”は同時使用ブロックが6個までに限られ、DSP使用量も上位モデルより制限があります。特にアンプを2種使うとかなりDSPを圧迫するので、この組み合わせは使用上限ギリギリという感じです。
Dual Cabs [3:02〜3:13]
Guitar : Normal PU
Amp : ANGL Meteor
Cab : 4×12 Blackback30 (Dual)
Distortion : Teemah!
Modulation : Double Take
ここではキャビネットをデュアルにした上にダブリング的エフェクトを加えてステレオに振り、広がりと厚みを感じさせる音作りをしました。
アンプは先程の歪みと同様ENGL系モデル、そこに”Paul Cochrane Timmy”を基にしたオーバードライブでブーストしています。
メタル系のバッキングには特に有効な設定だと思います。アンサンブルのバリエーションとして試してみてはいかがでしょうか。
Hot Lead Tone [3:14〜3:36]
Guitar : Normal PU
Amp+Cab : Archetype Lead
Pitch : Pitch Wham
Distortion : Deez One Mod
Delay : Ping Pong
Reverb : Plate
最後はハイゲイン設定のリード・トーンです。
アンプは”Paul Reed Smith Archon” (Leadチャンネル)を基にしたモデルで、”BOSS DS-1 (Keeley Mod)”を基にしたディストーションを加えました。
そしてディレイで左右に広げリヴァーブで奥行きを出す、王道的な音作りです。最後は”Digitech Whammy”を基にしたモデルをエクスプレッション・ペダルで操作しピッチを上げています。この際エクスプレッション・ペダルにはディレイのフィードバックとレベルも同時に割り当てています。つまりペダルを踏み込むとピッチが上がりディレイのフィードバックが増し、ディレイの音量も大きくなる仕組みです。このように複数のパラメーターを割り当てる事で、使い方の幅が広がります。
総評
デジタル・マルチ・エフェクターというのは往々にして多機能で、紹介するにも情報量が多くて本質を伝えるのが難しい面があります。
“HX STOMP”はアンプ・モデリングも備えているので、正直当初はどこから手をつければ良いのやら…と思った次第です。
結果的にはコンセプトを変えて2本の動画を制作した事で、違う側面から”HX STOMP”に触れられたので、より深く理解出来たような気がします。
実際に使った感想・利点としては月並みですが下記のような感じです。
- 単体のエフェクトがそれぞれハイクオリティ。更に複数のブロックを組み合わせる事で幅広く複雑な音作りにも対応。
- 手持ちのペダルボードに加えて足りない要素を補える。または他のペダルが担っていた役割を置き換えられる。
- アンプとしてリハーサル・スタジオやライブハウス常設のアンプと組み合わせたり、直接PAに送ったり。
- ヘッドホンを繋いで練習用アンプ/エフェクターとしても気軽に使える。
- USB接続でオーディオ・インターフェースとしても使用可。
中でもコンパクト化によって既存のシステムに導入しやすくなったというのが魅力的です。
「用途に応じて役割を変えるマジックカード」的な表現が当てはまるマルチ・エフェクターはいくつもあると思いますが、”HX STOMP”はそのマジックカードを何枚も備えたような存在と言えるでしょう。機能とサイズのバランス感はマルチ・エフェクターとして間違いなく最強クラスです。
私自身”Helix Floor”, “Helix LT”, “HX Effects”をそれぞれある程度の期間試用してきましたが、使い方の多様性は”HX STOMP”が最も高いと感じました。
良い事だらけのようですが、いくつか気になった点もあります。
例えばフットスイッチに触れるだけで、そのスイッチに割り当てたブロックを表示出来たりするのですが、液晶下のノブとフットスイッチの距離が近いので意図せず触れてしまう事が多々あります。(これは個人差もあるかも知れませんが)
ディストーションのパラメーターをいじっていたのに突然ディレイの操作画面に切り替わってしまう。こういう事が度々あるとストレスを感じます。が、解決法はあります。設定の「Global Settings > Footswitches > Stomp Select」で「Touch」を「Press」に変更すれば、フットスイッチに触れてもブロックが切り替わらなくなります。その代わり便利な機能が使えなくなるわけではありますが…。どちらを取るかは悩ましい所です。
そしてデジタル・マルチの宿命とも言えますが、限られたノブ/スイッチを組み合わせた操作を直感的に出来るには慣れが必要です。
あとは問題というわけではないのですが、本体が結構熱を持つのが少し気になりました。
いずれも小さいサイズに機能を詰め込んだ故の結果と言えるでしょう。とは言え欠点と利点を秤にかければ、明らかに利点が勝っています。
さて、”HX STOMP”の機能・音質・可能性を感じていただけたでしょうか。
私自身もまだまだ探りがいがあると感じて、今後積極的に使っていこうと考えています。
かなり人気なので2018年12月現在品薄のようです。そうなるのも頷ける、数年に一度レベルの魅力的な製品だと思います。