櫻井敦司にまつわる思い出【第2章】愛の惑星Live リハーサル編
- 2024-03-14 (木)
- カテゴリー: blog
序文
このブログは、櫻井敦司(BUCK-TICK)のソロアルバムやバンドTHE MORTALに参加した私Jake Cloudchairが、櫻井敦司にまつわる思い出を綴るものである。(もちろん、書ける範囲で)必ずしも全てが本人のエピソードというわけでもない事をお断りしておく。なかなかに長くなりそうなので数回に分けて公開する予定だ。
前章:櫻井敦司にまつわる思い出【第1章】出会い〜ソロ作レコーディング編
今回の第2章は、櫻井敦司ソロ名義ライヴに向けたリハーサル期間について書こう。その辺りの事は過去のブログでも少し触れているのでそちらもご参照いただけたら幸いである。
旧サイトより再掲:愛の惑星 / 櫻井敦司
前回の投稿と同様に、当時書かなかった思い出を記してみたい。
ストレッチ或いは儀式
2004年、櫻井敦司のソロ・アルバム「愛の惑星」が完成し、リリース後にライヴが行われる事になり、私はギタリストとして参加が決まった。リハーサル期間は途中に休みを挟みつつ10日間ほどだったろうか。そのリハ初日も印象深い。
ヴォーカリストはミュージシャンの中でも特に肉体的なパートである。故に、演奏前にウォームアップする人も多く、人それぞれ準備運動や発声練習のルーティンを持っていたりするものだ。櫻井さんは歌う前にストレッチをしていたのだが、それが私の目にはなかなか個性的に映った。アキレス腱や股関節を伸ばすストレッチを思い浮かべてみて欲しい。片脚を前に出し膝を曲げ、他方の脚を後ろへ伸ばす形だ。例えば下の画像のような形である。
よくある動作だが、櫻井敦司の場合はどうなるか。
マイク・スタンドに両手を添えて支えにしながら、ひざまずくように深く腰を落とし、そこから後脚を思い切り伸ばす。その深すぎる腰の角度、長すぎる脚、そして低く垂れた頭。その姿はまるで祈りを捧げる異教徒の儀式。映画のワンシーンのようですらあった。それを見ていたドラマー阿部耕作さんは「櫻井さんストレッチしてるだけでカッコいいね」と言った。
後々、下半身のストレッチってヴォーカリストにとってそんなに大事かな?と思ったりもしたが、この11年後にその理由が判明する事となる。その件はまた後日、THE MORTAL編に書きたいと思う。
親睦会という名の宴
酒宴を好むミュージシャンは少なくない。この時のライヴ参加メンバーも基本的にそうだったと記憶しているし、何しろ座長の櫻井敦司は酒豪として知られている。過去のブログにも書いたが、ライヴのリハを終えたら親睦会と称してメンバーが連れ立って飲みに行くのがほぼ慣習となっていた。必ずしも毎回全員集まるわけではなかったが、櫻井さんと私は全てに参加したと思う。色々な店に行ったものだが、中でも印象深いのは当時渋谷にあった英国風パブである。(この数年後になくなってしまって今は存在しない)
当時の私は飲みに出かければ朝まで帰らないのが当たり前だったが、櫻井さんは朝どころか昼まで飲み続けられる強者であった。流石に毎回昼までとはいかなかったものの、夜更けまで飲み続ける事は多く、その締め括りでよくお世話になったのが前述のパブだった。朝方まで営業していたその店はおそらく50名くらいは入れる大きさだったが、平日の深夜ともなると客数は少なく、ほぼ私達だけだったように思う。この店では客のリクエストに応じて音楽をかけてくれた。好きな曲を聴きながら酒を煽れば当然ご機嫌になる訳で、一人が音楽に合わせて踊り出すと他の者も釣られて、という感じでパブと言うより人気のないクラブのような光景を幾度も見たものだ。
ある時、確か私がThe Doorsの”The End”をリクエストしたのだったと思う。Jim Morrisonが同曲のライヴで披露していたような、シャーマン或いはインディアン風のダンスを、櫻井さんが披露した事があった。それは本家を軽く上回る格好良さで、もはや神々しくすらある姿だった。まあまあ広い店内は少人数の私達で貸し切りのような状態。大音量の暗い音楽に合わせて妖しく踊る黒ずくめの男。客観的に見ればさぞ異様な光景だったろう。店には悪いが、他の客が来なかったのが幸いである。(例え客が来ても店内の様子を見たら引き返すだろうが)
さて、上記のように大いに盛り上がる夜もあれば、落ち着いて静かに語る時も勿論あり、それがライヴの内容に繋がった事があった。ある日のパブでDavid Bowieの”Space Oddity”を聴いていた時に私が櫻井さんに「この曲をカヴァーした事がある」と言ったら、じゃあ今回のライヴでもやってみようかという話になった。今回邦楽のカヴァー曲はいくつかあったが洋楽は含まれていなかったし、”Space”という言葉も”愛の惑星”に繋がってて良い。そんな感じで飲み会の最中、本番の数日前に急遽この曲がセットリストに加わったのである。
お気楽に酒の席の勢いで1曲増えるみたいな事は、バンドならよくあると思うし、曲を知っていれば対応もさほど苦ではない。しかしこのライヴでは殆どの曲でシーケンス(打ち込み)が同期しており、レコーディングで使われた音素材と生演奏を組み合わせる形態で、藤井麻輝さんがその大量のデータを取りまとめていた。その作業で多忙だったと思われる藤井さんは前出の飲み会には参加しておらず、”Space Oddity”を追加する旨は後日伝えられたのだが、彼にとっては時間のない中で突然予定外の仕事が追加される事となった。何故なら”Space Oddity”のシーケンスをゼロから作る羽目になったからだ。私としては、気軽なカヴァーだしシーケンス無しでも良いんじゃないかと思ったのだが、おそらく全体の統一感を重視していたのだろう藤井さんは、寝る間も惜しんで1人でこの宿題をこなしてくれたのだった。飲み会で思いついたばかりに苦労を増やしてしまい申し訳なさを感じた次第である。しかもライヴ本番でこの曲を演奏した際、私のせいで櫻井さん含むメンバーが冷や汗をかく事態を引き起こしてしまうのだった。その件はまた改めて書くとしよう。
本来は今回ライヴ本編についても書くつもりだったがリハだけで予想以上に長くなってしまったのでまた次回に。
というわけで第3章は櫻井敦司ソロライヴ編の予定。