櫻井敦司にまつわる思い出【第1章】出会い〜ソロ作レコーディング編
- 2024-03-07 (木)
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序文
2023年10月19日 櫻井敦司永眠
こう書いても未だにピンと来ない。彼はもうこの世にいないと頭ではわかっているのに、まだ信じられないような気がする。亡くなったと知った時にはSNSに何か書こうとも思ったが考えがまとまらず、書きたい事もあり過ぎる。少し落ち着いて時間もある時に改めてブログに書こうと決めたのが2023年10月下旬の事。しかしそれがずっと心の片隅にあるまま、気づけば2024年3月になっていた。このまま放置するといつになるやらわからないし、今日はちょうど彼の誕生日だし、この機会に重い腰を上げて自分なりの文章を書いてみようと思う。
あっちゃん(いつからかこう呼んでいる)とは縁あって知り合い、その数年後に彼のソロ・アルバムとライヴに参加させてもらい、更に数年後にTHE MORTALというバンドで活動を共にした。
共に過ごした時間は決して長くないが、思い出に残る事はたくさんある。なにしろ、櫻井敦司と一緒に音楽を作り活動するというのがいかに貴重な機会かはご理解いただけると思う。そしてその状況で起こる様々な事柄もまた特別な記憶になり得る事も。(例えそれが取るに足らないような些細な事でも)
ここで櫻井敦司にまつわる思い出のいくつかを書き記していく。(もちろん、書ける範囲で)必ずしも全てが本人のエピソードというわけでもない事をお断りしておく。なかなかに長くなりそうなので数回に分けて公開する予定だ。
第1章は、櫻井敦司と私との出会いから彼のソロ名義でのアルバムについて。
さあ、始めよう。
櫻井敦司との出会い
私が櫻井さん(当時はこう呼んでいたのでそのまま書く)に初めて会ったのは確か1996年、ビクター・エンタテインメント本社ビルでの事だったと思う。私は当時Guniw Toolsというバンドに所属しており、ビクターからデビューしたばかりだった。実はGuniw Toolsを発掘して契約に導いてくれたディレクター田中淳一氏はBUCK-TICKを初期から手掛けていて、言ってみれば私は櫻井さんの後輩にあたる。たまたま同じタイミングで同じ場所に私たちとBUCK-TICKのメンバー全員が居合せたので、田中さんがお互いを紹介してくれた。彼らは正にロック・ミュージシャン然とした風格を漂わせながらも気負わず飄々とした雰囲気を纏っていて、私は「こんな大人になりたい」と思ったものだ。今ではもう私も当時の彼らの年齢をとっくに超えてしまったが、果たしてあんな大人になれたかは定かではない。
櫻井敦司がいかにカッコいいかという話は、Guniw Toolsの1stアルバム制作時に田中さんやエンジニア比留間整さんからたくさんうかがっていた。例を挙げれば「日本で一番男前」とか、「メイクするより素顔の方がカッコいい」とか、「天は二物を与えた」などなど枚挙にいとまが無い。そのようなインプットがあったおかげで私の中にはすっかり櫻井敦司像が確立していたのだが、実際目のあたりにした御本人は正にそのイメージ通りで、「本当に実在するんだな」としみじみ思った。お互いに自己紹介した時のシャイな微笑みが印象的だった。
楽曲「猫」について
櫻井さんと初めて会ってからしばらく経った2004年、田中さんからの電話で櫻井敦司ソロ・アルバムへの参加を打診された。この辺りの事は過去にブログに書いたので、興味ある方は下記リンクからどうぞ。
旧サイトより再掲:愛の惑星 / 櫻井敦司
印象深い話は既に上記の投稿に書いたのだが、せっかくなのでここにもう少し書き足しておこう。櫻井さん本人との思い出とは少し離れてしまうが、まずはソロ・アルバムに提供した曲「猫」の制作について。
レコーディングに入る前、私は3曲のデモを作って田中さんに聴かせ、どの曲を使うか選んでもらった。その中に「猫」があったのだが、何を隠そうその曲は私がSuper Soul Sonicsというバンドに在籍していた頃に書いた曲で、そこでは採用されずボツになった曲だった。ボツにはなってしまって少し落ち込んだが、私は個人的に気に入っていて、いつかこの曲に日の目を見せたいと願っていた。そしてせっかくなら素晴らしいシンガーに歌ってもらいたい、とも。私にとっては、相応しい機会が訪れたならこの曲を出そう、と常日頃考えていたとっておきのストックだった。そして遂にその時がやって来た。
櫻井さんソロ用の曲出しの日、私は緊張していた。3曲用意した私は、聴く順番も考慮してこの曲を最後に流した。そして曲を全て聴き終えた後、田中さんから「最後の曲で行こう」という言葉をいただけたのだった。お気に入りの曲を素晴らしい機会に使ってもらえると決まって私は晴れやかな気持ちになった。
(ちなみに前述の過去の投稿では「猫」が書き下ろしだったように受け取れるかもしれないが、実際新曲もいくつか書いた上での事なので大目に見ていただきたい)
ヴォーカル・レコーディング
話が少し横道に逸れてしまったが櫻井さんとの思い出に戻ろう。「猫」のヴォーカルをレコーディングした時の事だ。デモ音源では私自身が歌ったのだが、割と全編囁くようなトーンで歌っていた。私は本業ヴォーカリストではないし歌い上げるのが得意ではなかったのでそのようなウィスパー的な歌い方にしたのだが、櫻井さんが初めてスタジオで歌い出した時、なんとその囁くようなニュアンスをそっくり再現したのだ。私の素人同然の拙い表現を再現されて少し恥ずかしさを覚えたと共に、いやそれ以上に彼の作曲者へのリスペクトを強烈に感じた。言うなれば曲に込められた魂を自らに憑依させるような、音楽に身と心を捧げるシャーマンのように思えた。私は当時までに無数の曲を書いてきて様々な方に歌ってもらってきたが、こんな歌い手に出会ったのは初めてだった。大袈裟に思えるかもしれないが、私は深く感動した。
さて、感動はしたのだが、せっかく素晴らしいヴォーカリストなのだから本領発揮して歌い上げるヴァージョンも聴いてみたい、という思いが込み上げてきて「サビで声を張って歌ってみてください」とリクエストした。その要望に即座に応えた彼の歌を聴いて私は更に感嘆した。この人は本当に凄い。ああ、この曲は彼に歌われる為に私に降りて来たんだな、そして来るべき人の下に落ち着いたんだな、と独り納得したのであった。
私にとって更に特別なものになったこの曲を聴いてもらえたらとても嬉しい。
櫻井敦司/愛の惑星(アナログ)ビクターエンタテインメント
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VIJL-60327.html