櫻井敦司にまつわる思い出【第3章】愛の惑星Live ライヴ編
- 2024-03-21 (木)
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序文
このブログは、櫻井敦司(BUCK-TICK)のソロアルバムやバンドTHE MORTALに参加した私Jake Cloudchairが、櫻井敦司にまつわる思い出を綴るものである。(もちろん、書ける範囲で)必ずしも全てが本人のエピソードというわけでもない事をお断りしておく。なかなかに長くなりそうなので数回に分けて公開する予定だ。
【第1章】出会い〜ソロ作レコーディング編
【第2章】愛の惑星Live リハーサル編
今回の第3章は、2004年NHKホールで2日間行われた櫻井敦司のソロ名義ライヴ「愛の惑星 Live」について。このライヴについては過去のブログでも触れているのでそちらもご参照いただけたら幸いである。
旧サイトより再掲:愛の惑星 / 櫻井敦司
これまでの投稿と同様に、当時書かなかった思い出を記してみたい。
2004.7.21. “愛の惑星 Live” 1日目
入念な準備(と懇親会)を重ねた櫻井敦司と彼を支えるバンドメンバー達は遂にライヴ初日を迎えた。セットリストはソロアルバム「愛の惑星」全曲に未発表曲とカヴァー曲を加えた全18曲。「愛の惑星」は1曲毎に作編曲・プレイヤーが異なる謂わばコンピレーション的な内容で、サウンド面でもヴァリエーションに富んでいたが、ライヴでは同じメンバーにより演奏される事で音源とはまた異なる統一感が生まれたと思う。そして前回の投稿でも触れたが、全曲のデータをまとめ上げた藤井麻輝さんの貢献度も高い。何より櫻井さんの歌がライヴ仕様にブラッシュアップされ、より輝きを増していた。
自分が演奏する隣で櫻井敦司が歌っている状況を想像出来るだろうか?いま客観的に考えてみれば、演奏しながらもずっと彼を見ていたい気持ちは正直ある。当時の私にもそんな気持ちが頭をよぎる時があった。プロとしてステージに立っている以上は正面を向き演奏に集中しているのが常だが、ふとした時に「ちょっと見ちゃおうかな(チラッ)」となった事もある。しかしたまたまそのタイミングで櫻井さんもこちらをチラッと見て目が合う瞬間が度々あり、その都度その目力に気合いを入れられ、再び演奏に熱が入るのであった。
この日全18曲の演奏が終わりメンバーがはけていく中、私は独りギターを弾き続けて余韻を演出していた。全員が去ってから静かに終わろうかと思ったが、気付けばステージ中央から櫻井さんがじっとこちらを見ていた。また!その目力!これはもう待たせちゃいけないやつだとようやく察した私は速やかに演奏を終わらせた。そして櫻井さんのエスコートに誘われるがまま、私たち二人は何故か腕を組んで歩きながら退場したのであった。
初日ゆえのぎこちなさは若干あったが概ねトラブルもなく、演奏も楽しめて充実したライヴだった。
2004.7.22. “愛の惑星 Live” 2日目
櫻井敦司ソロライヴ「愛の惑星 Live」2日目にして最終日。この日の公演は映像の収録が入り、後にリリースされた。実はこの日の私は訳あって体調がかなり悪く、食欲が全く無く、立っているのも辛かったほどであった。まあ、前日の打ち上げによる二日酔いで自業自得なのだが。リハーサルは何とか終えたものの全然体調が回復せず、途方に暮れてしばらくソファにうつ伏せで横たわっていた。そんな私の体の上に突然「ふわっ」とした感触があった。これは…タオルケット?やわらかい…あたたかい…ありがたい…一体誰が…?一瞬体を起こしてみると、去りゆく櫻井さんの後ろ姿が見えた。その背中は慈悲に満ち溢れていた。
櫻井さんの慈悲のおかげか、私は本番直前に奇跡的な回復を遂げ、前日以上の気合いに満ちていた。この貴重な機会、その為に積み重ねてきた準備、全てが今夜で終わってしまう。全力を注ぎ、全ての瞬間を味わい尽くして楽しもう。そんな気持ちでステージに臨んだ。前日に若干感じた固さもこなれて、より熱いライヴになったと思う。静かな場面はより繊細に、激しい場面はより荒々しく。櫻井さんとのアイコンタクトも前日より増して、一体感が強まってバンドらしくパフォーマンス出来た。
どの曲にも思い出はあるが、個人的に印象深い曲についていくつか触れていこう。
Märchen
Cocteau TwinsのRobin Guthrie提供曲「Märchen」で私はコーラスを担当したのだが、櫻井さんと私が寄り添って歌う場面があった。櫻井さんは結構距離感が近い人だな、と薄々感じてはいたが、物理的に最も接近したのがこの瞬間だったのは間違いない。彼が歌いながら私の側に近づいて来た時、あーこれは一つのマイクで一緒に歌う的なやつだなと理解した。しかしそれにしても…近い!気付いたら腕を回されてるし、歌ってる途中にどんどん距離が詰まってきて、いよいよ頬と頬が接触した時、あーこれはそういう流れだなと理解した。最終的には下記リンクの写真のようになった次第である。私が客席から殺気を感じた瞬間であった。あくまでもパフォーマンスなのでどうかお許しいただきたい。
【クリックすると写真が表示されます】
※センシティヴな内容が含まれている、かも?

若干刺激の強い画像だったかもしれないが気を取り直して次に移るとしよう。
猫
私の曲「猫」は音源では電子音を散りばめたアレンジだったが、ライヴ・ヴァージョンではリズム・パートや装飾的なシンセ等を大幅に削ぎ落とし、アコースティックなテイストにリアレンジした。そのおかげで落ち着きつつも壮大さを感じさせる曲に仕上がったと思う。そして櫻井さんは、彼の懐の深さが表れたような感動的な歌を聴かせてくれた。彼のそういう面を引き出す事が出来たのが、このプロジェクトで私が最も貢献出来た点ではないかと思っている。
Space Oddity
今回のライヴで最後に演奏したのは、前回の投稿(リンク)でも触れたDavid Bowieの「Space Oddity」だ。前回「冷や汗をかく事態があった」と書いたが、その件について説明しよう。
この曲は藤井さんが制作したバックトラックと私のギターから始まる。リリースされた映像/音源を視聴すると、序盤のバックトラック(ストリングス的な音や機械的な声)が少し遅れて聴こえるのがわかる。音楽に携わる人や原曲を知っている人なら、なんとなくズレているように聴こえるのではないかと思う。これは実はバックトラックがズレているのではなく、私が弾き始めるタイミングを間違えてしまったせいなのだ。櫻井さんや他のメンバーも私のミスに気付いた筈だが、流石百戦錬磨の皆さんは機転を効かせて私のギターに合わせてくれたのである。そのおかげで曲が崩壊する事なく何とか無事に正しい道筋に戻る事が出来た。特に櫻井さんは歌いづらかったと思うが、戸惑う素振りすら見せず見事に歌い切ってくれた。ズレていたのは冒頭のほんの1分ほどであるが、私にはそれがひどく長い時間に感じられた。それにしても折角寝る間を惜しんで作られた藤井さんのバックトラックがずれて聴こえてしまったわけで、またしても申し訳なさを感じた次第である。
この曲の最後にも小さなドラマがある。リハーサルおよび前日のライヴではノイジーで混沌とした状態で終わっていたが、この日私はそのアウトロのノイズの洪水の中、衝動的にイントロを再び弾き出した。打ち合わせにない突発的な流れだったが、櫻井さんは私のギターに乗って歌い出し、他のメンバーもそれに合わせ演奏をフェードアウトして静けさを演出してくれた。櫻井さんは原曲をなぞってカウントダウンを始め、最後に「Lift off…」と締めた。「愛の惑星から飛び立つ」とも解釈出来るような、実に美しいエンディングになったと思う。私の咄嗟の思いつきに付き合って最高の即興で返してくれた櫻井さん、そしてメンバー達には感謝してもしきれない。
この日の退場時、櫻井さんは笑いながら私の尻を叩いた。後にして思えば、愛のある先輩から未熟な後輩への優しい鞭のようにも受け取れる。思い返せば反省する事しきりで、未だに全く頭が上がらない思いである。
終宴
ライヴ終了後の打ち上げなど、まだまだ色々な事が起こったのだが、キリがないのでこの場ではこのくらいにしておこう。
ライヴの翌日、私は櫻井さんに感謝の意を込めたメールを送った。彼からの返信にあった言葉でこの章を締め括ろう。
「夢のような日々だった。ありがとう。
櫻井敦司」
次回からはTHE MORTAL編。気長にお待ちいただけたら幸いです。