青木裕ソロライブ「Lost In Forest Live」を振り返る

  • 2019-03-19 (火)
  • カテゴリー: blog


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 2018年3月19日。青木裕逝去。あの日から1年が経った。度々彼の事を思い出してはいつも「もういないんだなあ」という悲しさとも寂しさとも似ているようで違う、乾いた感情が残る。彼がいない事実は受け入れている筈なのに、それでも納得しきれないというような不思議な感情。そして思い出や後になって気づいた事などが多過ぎて、未だ整理しきれていない気もする。彼にまつわる話は色々とあり、いずれ文章にまとめようと前々から思っているのだが、いかんせん前述のように整理がついておらず、どこから手をつければいいのやら、と考えてずっと先送りにしてきた。しかしちょうど一周忌というタイミングだし、整理しきれないままでも構わないから、ひとまずは印象深い特別なライブについて書き出してみようと思った。書く行為こそが私自身の気持ちを整理する事になるのかも知れない、という想いも込めながら。


 2017年11月18日。青木裕ソロライブ「Lost In Forest Live」開催。このライブは全編YouTubeで公開されている。彼のソロ名義では唯一となったこの貴重なライブの記録を、お時間があれば是非味わっていただきたい。

出演
青木裕(Gt)、Jake Cloudchair(Gt)、arai tasuku(Prog)、柘榴(VJ / from downy)、城戸紘志(Ds)
スペシャルゲスト
MORRIE

 「今ソロの音源を作ってるんだ」と言って制作中の曲を初めて聴かせてくれたのは、少なくともリリースの5年以上前だったように思う。それ以降も音を聴かせてくれ、こちらが賞賛の感想を伝えれば「凄いでしょ?わかってくれて嬉しいな」と返してくる、そんなやり取りが幾度となくあった。しかし完璧主義者の彼が初めて自らの名を冠する作品が、そう簡単に完成する筈もなかった。いつになるのか見当もつかない、そもそも完成するのかどうかすら分からないプロジェクト。
「ソロアルバムが出来たらライブやるから、Jakeギター弾いてね。」この言葉を初めて聞いたのも随分前の事だったと思う。私は「もちろん。何でもやるよ。」と約束した。

 2017年1月。構想と制作に約10年を費やしたソロアルバム「Lost In Forest」は遂にリリースされた。そしてリリースを記念するライブは、この年の11月に開催される事になった。

 ライブの1ヶ月程前から準備が始まり、ソロアルバムの曲をライブ用にリアレンジした音源も青木裕から送られてきていた。同時期にdownyのライブ等も控えていたので彼はいつも以上に多忙だったように思うが、入念な準備を重ねていた。


 2017年11月13日。本番を間近に控えたタイミングでの連日リハーサルがこの日から始まる。しかし午前10時半、青木裕から連絡が届く。「しばらく胃の激痛が続いていて、今病院です。」その30分後には「ごめんなさい。このまま緊急入院です。リハーサルはキャンセルします。」
我々は突然、ライブ開催すら危ぶまれる状況に陥った。無理せずゆっくり休んで治療するべきだろう、例えライブが中止になっても仕方ない。私はそう思った。

 翌14日。青木裕から「夕方スタジオに行けそうだ」との連絡。そのメッセージには点滴の写真が添えられていた。もう少し休めば、との周囲の声を振り切ってリハーサル及びライブを敢行するつもりでいるようだ。かくしてリハーサルは再度スケジュールを組み直し、結局ライブ前日の17日まで4日連続でリハーサルする事となった。
 青木裕はこの日、歩くのも辛そうな様子でスタジオへやって来た。この時点での病院の診断は、腸閉塞の疑いがある、との事だったようだ。聞けば食事はおろか水を摂る事も医者に止められ、ライブ当日までは点滴でしのぐつもりだと言う。無茶にも程がある。しかし彼がライブ中止などもう微塵も考えておらず、そして気迫は十二分にある事を確かめ、このライブをやり遂げる為に私は全力でサポートすると腹をくくった。

 それからの連日リハーサルは正に怒涛の日々だった。青木裕は連日朝から夕方までは病院で点滴を受け、その後スタジオへ。その他のメンバーもそれぞれ自分の役割と宿題をこなしていく。ドラムの城戸紘志君は他の現場と並行した綱渡りのスケジュールだったし、プログラミングのarai tasuku君は要求される作業量が多大で徹夜続きだったようだ。その甲斐あって演奏の仕上がりは手応えのあるものだった。スペシャルゲストのMORRIEさんがリハーサルに参加した時には戦慄さえした。凄いライブになると全員が確信していたと思う。

 緊張感の続く数日間だったが、いかにも青木裕らしいなとほっこりしたエピソードもある。ある日の事、彼が歩くのも辛いだろうに、Amazonの小さめのダンボール箱を鷲掴みにしてスタジオ入りした。「ちょっと見てよ!」スタジオに入るや否や、待ち切れないといった様子で箱を乱雑に空けると、その中からエフェクターを取り出した。「これ届いたから使おう!楽しみだなあ。」彼を良く知る人なら分かるだろう、あの少年のような表情で。



photo by eisuke asaoka

 2017年11月18日。青木裕ソロライブ「Lost In Forest Live」当日。この日も青木裕は病院で点滴を受けてから会場に現れた。正に満身創痍だった。彼の体調については一切公にされていなかったが、本当にギリギリの状態だった。もし彼が倒れたらそこでライブは終了、そんな覚悟で望んだステージだった。
 開場前、彼にはギターの弦を張り替える気力すら残っていなかったのだ。私が彼のギターの弦を張り替えた。

 ライブは青木裕の独奏で幕を開けた。長いようであっという間のような、時間感覚が麻痺するような演奏。メンバー全員が舞台袖から彼を見守っていた。いや、見守っていた筈がいつの間にか魅入られていたように思う。私達は特等席で彼の渾身のパフォーマンスに向き合う事になったのだ。
 このライブの緊張感は比類なきものだった。静けさと激しさ、ごく繊細なニュアンスで成り立つあやういバランス。技術的な問題とは異なる難易度の高さを感じた。それもそうだ、今までにない他の誰とも違う「青木裕の音楽」を具現化するのだから。それは、とても、美しかった。

 ライブは無事に終了した。私達はやり遂げた。正に全力を尽くした青木裕は早々に会場を後にした。打ち上げはまた改めてやろう、と約束してその日は別れた。


photo by eisuke asaoka


 青木裕とはその後何度か会う事が出来た。いつも彼は元気そうにしていて、私は彼が病気を克服すると信じていた。しかし最後に会った僅か2週間後に彼は逝ってしまった。別れ際にかけてくれた言葉が今でも心に焼き付いている。
「Jakeありがとう」

 やはり今でも私の心は整理がつかないようだ。しかし、あの日のライブを振り返る事で少し感覚が変わったかも知れない。彼の音楽や生き様に携わる事が出来て、いま私は幸せを感じて清々しい気持ちだ。青木裕に出会えて良かった。ありがとう。



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