【本物のスプリング・リヴァーブ】Anasounds「Element」
- 2019-05-20 (月)
モダンなセンスによるアナログ回帰
フランスのハイセンスなエフェクター・ブランド「Anasounds」のアナログ・リヴァーブ「Element」を紹介します。
NAMM2019で発表され話題になったこの製品は本物のスプリングを使用したリヴァーブです。
コントローラーであるペダル「Element」と、スプリングが入った「タンク」を繋いで使用します。
「タンク」には3サイズが用意されており、それぞれリヴァーブ音の長さや音質が異なります。
公式動画を作らせていただきましたので、まずは是非ご覧くださいませ。
Anasounds | Element [Real Spring Reverb]
Credit
- Music / Movie / Cast
- Jake Cloudchair
- Thanks to
- 荒井貿易
使用機材リスト
- ギター
- APⅡ(Aria Custom Shop) MAF-8120GP
- ギター・アンプ
- Kemper Profiler :(使用モデル:Fender Twin Reverb & Shure SM57)
原点回帰
アナサウンドは2017年から伝説的なFender Twin Reverbサウンドの再現に挑戦。デジタルプロセッサーを含めた様々な検証した結果、100%アナログなリバーブに着目し開発を進めました。新しいアプローチで開発を続け、ペダルに入ったツインリバーブとして、またそれをも越えるようなペダルとして完成したのがこの「エレメント」です。
エレメントはリバーブの原点に戻り、本物のスプリングを使用しています。人工的な物では無く、シンプルで自然。この美しいメカニズムでアナログ信号と融合されます。
– 製品紹介ページより –
解説
それではデモ動画での設定・音色について解説します。
各ノブの詳細については下記”Controls”の項をご参照ください。
いつもの動画と同様にアンプの設定は一定の状態です。
どのパートもAnasoundsのエフェクターで音作りをした上で、最後段つまりアンプの直前にElementを繋いでいます。
アンプのエフェクト・ループに繋ぐ使い方もありますが、今回はやっていません。
リヴァーブ音が聴こえやすいよう、Mix(エフェクト音のバランス)を大きめに設定してあります。
Basic Setting / 各タンク [演奏箇所:0:33〜1:14]
- Out
- 5(時方向)
- Mix
- 12
- Low
- 12
- High
- 12
- Sat
- Off
- Tank Size
- M / S / L
まずはElementの基本的な音色と、各タンクのエフェクト音を確認してみましょう。
Elementの”Low”と”High”は12時、”Saturation”はオフです。
Anasoundsのマーシャル系歪みペダルHigh Voltageでクランチ・サウンドを作っています。
最初に選んだタンクは中サイズの”La Brute”。スプリングらしい独特の残響感がしっかり出ています。現在販売されているリヴァーブ・ペダルはその殆どがデジタル製品で、スプリングを再現したものも色々とありますが、本物のスプリング・リヴァーブはやはりひと味違うなというのが第一印象でした。リヴァーブ音を大きめに設定してたっぷり残響を加えても原音を邪魔しないのが特徴的です。深い奥行き感とやわらかい質感を持つリヴァーブの音質を味わえます。
Elementの設定は同じままで、タンクを小サイズの”Le Bon”に繋ぎ替えます。各タンクはそのサイズによってスプリングの長さが変わり、それがリヴァーブの長さと音質に影響します。小サイズは先程に比べて余韻が短め(それでも十分長いです)、そして音質も高域寄りで明るい印象です。
大サイズのタンク”Le Truand”はまずその大きさに圧倒されます(サイズの割には意外と軽量です)。余韻もかなり長いですが、小・中サイズでも必要十分な長さを持っているので、サイズによる差は劇的なものではないと感じます。それよりも音質への影響が大きいです。大サイズでは音域のレンジに余裕があり、深みを感じさせる落ち着いた音色になっています。
このようにサイズ毎に少しずつ音質が異なりますが、Elementの設定によりその差を縮めたり逆に特徴を強調する事が出来ます。ここから先は各タンクの個性を強調する方向で音作りをしていきます。
Mellow Reverb [1:15〜1:45]
- Out
- 2
- Mix
- 2
- Low
- 5
- High
- 7
- Sat
- Off
- Tank Size
- L
大サイズの”Le Truand”を使い、”Low”を最大、”High”を最小にした設定です。
Klon Centaur系ペダルSavageでクリーン・ブーストしています。
とてもやわらかくあたたかい質感のリヴァーブで、クリーン・トーンに深みと色気を加えてくれます。
Light Reverb [1:46〜2:15]
- Out
- 2
- Mix
- 1
- Low
- 7
- High
- 1
- Sat
- Off
- Tank Size
- S
今度は小サイズの”Le Bon”で低域をカットした明るい設定にしてみました。
ブースターFreq Upでトレブル・ブーストして軽く歪ませました。
カッティング等にはローカットした方が歯切れ良く聴こえてフィットするでしょう。
Controls [2:16〜2:57]
Elementの各ツマミを動かしてそれぞれの効果を確認してみました。
“Out”はリヴァーブの音量です。”Mix”と組み合わせて使います。
“Mix”も音量調整ですが、こちらは原音とエフェクト音のバランスを調整します。最小では原音のみ、最大でエフェクト音のみになります。
“Low”と”High”はそれぞれエフェクト音の低域/高域をカット&ブーストします。リヴァーブ・ペダルで2バンドEQのものは珍しいかも知れません。これは実用的な仕様だと思います。
小さいトグル・スイッチ”Saturarion”は、信号をブーストしてスプリングで歪みを得るユニークな仕組みです。オンにするとリヴァーブの音量も上がるので”Out”と”Mix”を合わせて調整します。
Elementを同じ設定のまま同じフレーズを弾いて、各タンクの比較もしてみました。サイズが大きくなる毎にリヴァーブ音の重心が低くなっていくのがわかると思います。
そしてスプリング・リヴァーブの裏技であり、人によっては醍醐味とも言える「スプリング叩き」。タンクに衝撃を加えるとスプリングがそれを増幅してビシャーン!という音が得られます。スプリング・リヴァーブを内蔵したアンプを叩くと同様の音が鳴りますが、Elementはそれをもっとえげつなくした感じですね。本来機械に衝撃を加えるのは非推奨かと思いますが、Anasounds公式の動画やウェブサイト等でも堂々と叩かれているので、これも正しい使い方と言えるのでしょう。ドラマー/パーカッショニストにも使えるアイテムだと思います。そんなに強く叩かなくても十分鳴りますので、衝撃を加える際は自己責任でほどほどの強さに。
Spring Saturation [2:58〜3:38]
- Out
- 5
- Mix
- 2
- Low
- 12
- High
- 12
- Sat
- On
- Tank Size
- M
“Saturation”をオンにしてスプリングによる歪みの音色を確認してみます。ここでは他の歪み系ペダルは使っていません。
オーバードライブ/ディストーション/ファズどれとも違う独特の歪み方ですね。リヴァーブ音にぎらついた倍音感が増して荒々しい迫力が出てきます。歪むのはリヴァーブ音のみで原音には影響しないので、例えば「アルペジオやストロークで原音の輪郭を残しつつ歪みを加える」という使い方も出来ます。
More Saturate [3:39〜3:59]
- Out
- 10
- Mix
- 5
- Low
- 3
- High
- 1
- Sat
- On
- Tank Size
- M
“Mix”を最大にして、歪んだスプリング・リヴァーブ音のみで弾いてみました。リヴァーブ音を歪ませるのはシューゲイザー的音作りに有効ですが、Elementはその用途にも使えます。しかも単体でリヴァーブ+歪み効果を得られるのが良いですね。飽和感が独特なので、Elementでしか得られないエフェクトとも言えます。
Fuzz Lead (Sat:Off) [4:00〜4:20]
- Out
- 5
- Mix
- 2
- Low
- 7
- High
- 2
- Sat
- Off
- Tank Size
- L
オクターヴ・ファズ系Bitoun Fuzzで歪ませ、リヴァーブを加えてリードを弾いてみました。まずは”Saturation”をオフにした設定です。強く歪んだ原音に対しても邪魔せず深い奥行きを加えます。
Fuzz Lead (Sat:On) [4:21〜4:41]
- Out
- 5
- Mix
- 1
- Low
- 9
- High
- 12
- Sat
- On
- Tank Size
- L
最後にBitoun Fuzzで歪ませた上にElementの”Saturation”をオンにしました。どちらのペダルも歪ませると派手な倍音が加わりますが、組み合わせると相乗効果で更にエグみが増します。特に最後のベンドしている箇所など、オクターヴ・ファズらしいスクリーム感に歪んだリヴァーブが加わって、弾いていて非常に気持ち良かったです。音色の荒々しさはクラシック・ロック的な質感がありますね。
総評
2019年初頭、Anasoundsのオーナーでありペダル設計者Alexandre Ernandezから私に、このElementの写真が送られてきた時は相当のインパクトを感じました。この時代にアナログ・リヴァーブを作る、それも本物のスプリングを使う、しかもそのタンクのサイズ感…もとより彼等のコンセプトやデザインは際立ってユニークでしたが、今回は突き抜けたなと思います。ヴィンテージへのリスペクトとモダンな発想と技術そしてユーモアを組み合わせる、Anasoundsらしさを凝縮したような製品です。
実際のサウンドも個性的かつハイクオリティで、海外レビュー系サイトで軒並み高評価を獲得しているのも頷けます。その音質は本物のスプリングを使う事の必然性を感じさせます。リヴァーブのトーンを2バンドEQで操作出来るのも非常に実用的です。スプリング・サチュレーションも独特のサウンドを持っています。
リヴァーブの長さ=ディケイが固定されている点はスプリングならではですね。ディケイやプリディレイ等のパラメーターを操作出来ないというのはデジタル・リヴァーブに慣れた身としてはある意味不親切かも知れません。しかし直感的な操作で完結出来るアナログらしい良さは、特にギタリストにとって魅力的だと思います。
販売パッケージは3種類、Element1台とタンク1種の組み合わせになります。タンク全種を試奏出来る機会は限られるかも知れないので、是非このレビューを参考にしてもらえればと思います。
Anasounds 販売リンク | デジマート
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