「L’」4機種レビュー:Roch, MAT, Red & 9/9【Shun Nokina(Leqtique)】
- 2017-03-15 (水)
Leqtiqueサウンドが新たなフォーマットで生まれ変わる
ハンドメイドで高品質かつアーティスティックなエフェクターを作る事で知られるLeqtique (レクティーク)。
その主宰者Shun Nokinaが新たに立ち上げたブランドが「L’」 (エル) です。
- Shun Nokina新ブランド「L’ 」始動 | Pro Boostレビュー
- http://www.cloudchair.net/guitar/l-launch/
L’から現在リリースされているのは4機種。
Leqtiqueで好評を得ているMaestoso、9/9、Redemptionist、Rochechouart、それぞれのモデルをL’の新たなフォーマットで作り直したものです。
2008年にShunNokinaDesign(SND)ブランドとして小型サイズに拘りを持ちエフェクターをデザインして来ましたが、当時の自分のデザインレベルやスキルに限界を感じ、また若いギタリストにもハイエンドエフェクターの世界観を感じてもらうべく、一般的なサイズにてSND同様の最高品質の部品を採用したままよりシンプルなデザインにし低価格化を実現し2010年より新たに始めたブランドがLeqtiqueでした。
Leqtiqueブランドからは現在5機種の歪みエフェクターを展開しています。そのそれぞれのサウンドをそのままにSNDとLeqtiqueそれぞれの良き要素、と加えて新しい要素を取り入れ、より理念を推し進めさらに低価格でトータルのパッケージとして満足して頂けるようなブランドデザインを水面下で行ってきており、それが実現したのがこのL’のエフェクター達です。
Shun Nokina 〜 L’製品に同梱のパンフレットより引用
今回L’初の公式デモとして4機種を紹介する動画を制作させていただきました。
Nokina氏の熱い想いに刺激を受け、それが反映されたような濃い内容になっているかと思います。
渾身のデモ動画、是非お楽しみください。
L’ | Roch, MAT, Red & 9/9 – Designed by Shun Nokina (Leqtique)
Credit
- Music / Movie / Cast
- Jake Cloudchair
- Thanks to
- フジゲン
- HARRY’S ENGINEERING
- OKADA International Inc.
- 荒井貿易
解説
それではデモの内容について解説していきます。
今回の動画では各機種につき2種類のギターを使った音作りを紹介しています。
そして音色の比較をはさみ、最後に2機種ずつ組み合わせて使ってみました。
使用機材リスト
- ギター
- FGN NST200
- FGN EFL-FM (with DeMont PU)
- dragonfly Sottile (Prototype)
- ギター・アンプ
- Koch Studiotone 40XL Head : クリーン・トーンにセッティング
- ベース
- FGN NJB200, One Control Sonic Silver Peg & Lemon Yellow Compressor
- Volume
- 12 (時方向)
- Gain
- 1
- Treble
- 1
- Low-Cut
- 9
- Volume
- 12
- Gain
- 12
- Treble
- 11
- Low-Cut
- 12
- Volume
- 12
- Gain
- 1
- Tone
- 9
- Low-Cut
- 9
- Volume
- 12
- Gain
- 12
- Tone
- 1
- Low-Cut
- 7
- Volume
- 12
- Gain
- 1
- Treble
- 12
- Low-Cut
- 10
- Leqtique版Redemptionistレビュー
- http://www.cloudchair.net/guitar/leqtique-redemptionist-review/
- Volume
- 12
- Gain
- 3
- Tone
- 2
- Low-Cut
- 2
- Volume
- 2
- Gain
- 2
- Bottom
- 2
- Treble
- 5
- Mid Cut
- Max
- Leqtique版9/9レビュー
- http://www.cloudchair.net/guitar/leqtique-9-9-review/
- Volume
- 12
- Gain
- 1
- Bottom
- 8
- Treble
- 1
- Mid Cut
- Min
- Model
- MAT
- Volume
- 12
- Gain
- 8
- Treble
- 12
- Low-Cut
- 8
- Model
- Red
- Volume
- 1
- Gain
- 1
- Tone
- 7
- Low-Cut
- 12
- Model
- Roch
- Volume
- 12
- Gain
- 1
- Treble
- 12
- Low-Cut
- 5
- Model
- 9/9
- Volume
- 2
- Gain
- 9
- Bottom
- 7
- Treble
- 10
- Mid Cut
- Min
Roch : Crunch Rhythm [0:27〜0:49]
まず紹介するのはRoch (ロッシュ)。Leqtique Rochechouart (ロシュシュアール)のL’版です。
所謂トランスペアレント系を発展させた、ソリッドな音色を持つオーバードライブです。
ここではシングルコイルを使い、ミディアムゲインのオーバードライブらしくクランチ・トーンで弾いてみました。
正統派オーバードライブ的な柔らかい中域と共にタイト感もある、独特なバランスを感じさせます。
動画の冒頭と最後で聴けるアルペジオもこの音色です。
コードの分離感に解像度の高さを感じます。
Roch : Crunch Lead [0:50〜1:14]
次にハムバッカーで弾いてみました。
TS系またはダンブル系に通じる中域の粘りを感じます。
甘さがありながらも輪郭がはっきりしていて、抜けの良いトーンを持っています。
同じセッティングのままでも手元のニュアンス次第でリズム/リードを弾き分けられるような、反応性の高いオーバードライブです。
MAT : Bluesy Drive [1:15〜1:37]
MATはMaestoso (マエストーソ)を基にしたTS系オーバードライブです。
Leqtique版は3ノブだったのが、L’では4つめのノブ「Low-Cut」が追加されています。
ここでは若干ローカットしToneを絞り、中域にフォーカスした所謂ブルージーな歪みを作ってみました。なかなか色気のあるトーンだと思います。
Maestosoは太い低域を持っていますが、ローが強すぎてフィットしない場面もあると思います。
L’版MATではローカットによってTS系らしい軽さを演出する事も出来るようになりました。
これはLeqtique版とは大きな違いで、かなり有効なコントロールだと感じました。
ただ効き方が割と極端なカーブです。ばっさりローカットする分には良いのですが、適度な太さを残しつつ微調整するには7〜9時あたりの割と狭い帯域に限られるように感じました。この調整はなかなかシビアかも知れません。
MAT : Creamy Drive [1:38〜2:01]
Low-Cutを最小にするとMaestoso同様の太いトーンになります。
Leqtique版に慣れ親しんでいる方にとってはこの状態がデフォルトといえるでしょう。
私にとっても馴染み深い音色です。甘さと粗さを併せ持つ歪みはさすがベストセラー、と思わせます。
Sound Check [2:02〜2:31]
4機種全てのノブを12時方向にして、各モデルの音色を比較しました。
クリーン・トーンと比べると、どれもキャラクターが濃いですね。
歪みの質感、そして音域のバランス・特に低域の押し出し感にモデル毎の違いを感じました。
MATは前述の通り、ある意味Low-Cutは最小がデフォルトとも言えるので12時方向にすると軽い感じがします。
Red : Fat Drive [2:32〜2:54]
元々ShunNokinaDesignのフラッグシップモデルとしてリリースされていたRedemptionist (レデンプショニスト)。
よりサウンドのバリエーションを拡張することを目的とし設計されたLeqtique版。
今回はRedとして再びミニサイズ化され、第3世代のフォーマットで生まれ変わりました。
この直前パートでもわかるように、Redは4機種の中でも太さを強く感じさせるモデルです。
ここではLow-Cutを少し絞って更に太いサウンドを狙ってみました。
SND時代から引き継いでいるスムーズな歪みだと思います。
Red : Tight Drive [2:55〜3:19]
Redは4機種の中で最も幅広く音作り出来るモデルだと思います。
ここではシングルコイルと合わせてタイトなトーンにしてみました。
割と歪んでいてコンプ感も強めなのですが、ブラッシングなどピッキングのニュアンスにはクリアに反応しています。
9/9 : Mid Scooped [3:20〜3:43]
9/9はハイゲイン・ディストーションです。
このモデルもLeqtique版の他にShun Nokina Design Surcustom 9/9+という派生版があり、今回のL’で3つめのフォーマットとなります。
Leqtique版と同様に、内部にMid Cutというトリマーがあります。
Leqtiqueでは指で回せて視認しやすいノブだったのですが、L’では精密マイナスドライバーが必要になり、更にどちらの方向にも止まらずに回り続ける仕様へ変更されました。
最小と最大の各ポイントでクリックを感じるとの事ですが、正直そのクリック感がよく分かりませんでした。
最小〜最大の幅が25回転という事で微調整しやすくなったとも言えるのですが、個人的には使いづらくなったように感じました。
以上の事情もあり今回のデモでは最小と最大の、2つの設定のみを使っています。
まずはMid Cut最大のザクザクしたミッドスクープ・サウンドです。
ビッグマフにも通じるような太さと荒々しさと共に、モダン・ハイゲインらしいキレの良さも持っています。
このパート以降、この音色は常に鳴っています。音圧がありつつも前に出過ぎないような、歌モノのバックで音の壁を演出する用途にも向いていると思います。
9/9 : Hi Gain Lead [3:44〜4:10]
9/9の持ち味のひとつは分厚い中域でもあります。
ここではMid Cutを最小にしてその特徴を活かしてみました。
太い音色ながらタイトでもあり、速弾きへの追従も申し分ありません。
MAT x Red : Smooth Drive [4:21〜4:41]
動画の終盤ではペダル単体ではなく、2機種ずつ掛け合わせて音作りしてみました。
まずはMATとRedの組み合わせ。
シングルコイルを使いながらも、太くスムーズな歪みが狙いです。
Redで太い歪みを作り、前段に置いたMATで更に角を落として甘いトーンに仕上げました。
どちらも太い音色を持ったペダルですが、掛け合わせる事でより追い込んだ音作りが出来ます。
Roch x 9/9 : Shred Lead [4:42〜5:24]
最後はRochと9/9の組み合わせ。
9/9はGain低めで中域にフォーカスした設定。
前段のRochでプッシュしつつローカットする事で、9/9単体で作るよりも更にシュレッド向けのタイトなトーンを狙いました。
2機種とも低域をばっさりカットしているのですが、細さは全く感じさせません。
音の粒立ちも良く、弾きまくりたくなる音色です。
ちなみにこの設定から9/9のGainをもう少し上げると高域が発振してしまい、制御しにくくなりました。
紙一重とも言える扱いの難しい設定かも知れませんが、ポイントをつかむと極上の弾き心地を得られます。
総評
クオリティの高さで知られるLeqtique製品の音を新たなフォーマットで表現する。
これはかなりハードルの高い挑戦だと思います。しかしそのコンセプトはしっかりクリアしていると感じました。
特にMATはローカット搭載でLeqtiqueとは違う個性を獲得しており、それが独自の魅力になっています。
反面、「Leqtiqueと全く同じ音を再現」しているかといえば、私は両ブランドの音に微妙な違いを感じました。
音のキャラクターは同じですが、例えばローエンドの量感など若干印象が異なります。
しかしそれは演奏している最中に気付く差で、出音を録音して聴いてみるとそこまでの違いは感じなかったりもします。
ただ9/9に関してはオペアンプが変更されているそうで、それが原因かは分かりませんがLeqtiqueに比べ解像度が少し落ちたように感じました。(その違いは僅差とも言えますが)
しかしそれは必ずしも劣化とは言い切れないのが要点だと思います。
Leqtiqueの高解像度や立体感は演奏のアラを隠さず表現するのに対し、L’ではレンジ感がまとまってある意味扱いやすくなったと感じたからです。
低価格化にはライトユーザー層が使いやすくなるという意図があると思いますが、扱いやすさという面でもこの音色の違いは同様のコンセプトに則っているのではないでしょうか。
私はこの点からL’/Leqtique双方の存在意義を感じ、納得した次第です。
上記のような差は感じましたが、L’のペダルはどの機種も充分以上なプロ・クオリティを持っています。
今回4機種を弾き込んだ事で私もすっかり惹かれてしまい、これからライブ/レコーディングの現場で使っていきたいと思っています。
そして筐体の質感や、化粧箱やメンバーズカードを含むパッケージのトータル・デザインも異彩を放っています。
SND、Leqtiqueともに多くのフォロワーを生んだ個性的な魅力がありますが、L’では次元の違う領域へ踏み込んだと言えるでしょう。
所有する事に喜びを感じられる製品に仕上がっていると思います。
国内屈指のペダル・クリエイターによる素晴らしい作品を是非手に取ってみてください。