【特別動画+レビュー】Leqtique「Beryl」
- 2018-04-30 (月)
Photo by Yuichiro Hosokawa
「トランスペアレント系」を独自に拡張
Leqtiqueの新作エフェクター「Beryl」(ベリル)を紹介します。
このBerylは、所謂トランスペアレント系のオーバードライブをLeqtique流に拡張したモデルです。
今回の新作発表にあたって、札幌にあるLeqtiqueの工房にうかがい、Shun Nokina氏(Leqtique代表)と細川雄一郎氏(ライター/エフェクター研究家)とのトークセッションを収録しました。
その濃密で熱いトークは勿論、Berylの試奏シーンもふんだんに加えて公式動画を制作させていただきました。
10分を超えるボリュームで、エフェクター好きには楽しんでいただける内容になっていると思います。是非ご視聴ください。
Leqtique “Beryl” Special Movie [Sound & talk session]
Credit
- Music / Movie
- Jake Cloudchair
- Photo
- 細川雄一郎
- Jake Cloudchair
- Thanks to
- Fujigen
- 荒井貿易
- Comawhite Custom Cable
使用機材リスト
- ギター
- FGN (Fujigen) NST11
- FGN NTL11
- FGN NSG100
- ギター・アンプ
- Kemper Profiler :(使用モデル:Fender Twin Reverb & Shure SM57)
なお公式ウェブサイトLeqtiqueshopのBeryl特設ページではNokina/細川両氏のインタビューが掲載されています。
更にマニアックな話が繰り広げられていますので、こちらも是非。
Beryl特設ページ
本作Berylは、トランスペアレント系と称されるオーバードライブのジャンルの本流のスタイルにLeqtique流に挑んだ作品となっています。今までLeqtiqueではRochechouart(2016)にトランスペアレント系のアイデアを用いながらも中域にフォーカスをあてた繊細なオーバードライブを設計しリリースしました。今作は、その時の方向性とは全く異なりそのフォーマットが持つ良さをそのまま我々の感覚で拡張しながら、思われし欠点を解消した上で新たな魅力を付加したトランスペアレント系のOD/DSとなっています。具体的にはトランスペアレント系のエフェクターとしての、従来のようなクリーンブースター,プリアンプ,EQ〜オーバードライブのすべてがマルチに可能という枠組みの強力さをそのままにしながら、軽快なディストーションサウンドをアウトプットできるところまで拡張してあります。
実際に実現するための設計回路のアイデアとしては、まず第一にトランスペアレント系のエフェクターの素性を完全に引き出すためのシンプルな回路構造と定数設定がベースに存在します。今回はRochechouartの時と異なり、中域のみにフォーカスを当てることなく、後述のように幅広いコントロール幅と慎重に選択された定数設定により、まずは完全なクリーンサウンドからTSスタイルのODサウンドまで演出できるようになっています。さらにその上で、従来のトランスペアレント系のエフェクターではGainコントロールを上げていった際にどうしても魅力的なサウンドを引き出すことが難しく、ではどう拡張しディストーションタイプのサウンドを演出できるようにするかという部分ですが、ここには従来トランスペアレント系エフェクターでは歪みセクションは1段、もう1段はバッファーとして使用されていたいましたが、後段をGainが低いレンジの場合はバッファーとして、Gainを上げていった際にはディストーションタイプのサウンドを付加する新たな歪みセクションとして機能するような可変回路に拡張することで成功しました。
このような”素性”をBerylは持っているため、Treble-Cut,Low-Cut,Gainを0にし、Volumeを可変することで完全なクリーンブースターをこなすところから始まり、ほんの少しGainを上げることでクリーンサウンドのまま相当可変域の広いVolumeを備えていることがわかります。また、Treble-Cut,Low-Cutに関してもLeqtiqueの他エフェクターと比較しても非常に広い可変域でありながらも、定数設定の妙でシンプルなLowPass/HighPassフィルターとは異なる操作感に拘りました。具体的な例としてはTreble-Cut,Low-Cutともに50%としてGainを40%までの間でお好みのポジションにすることで、Berylの持ち味である解像度の高く繊細、また恐るべき魅力を秘めた未知のLT1213の心臓部,Vintage Diode/Secret Green LEDのコンビネーションクリップ由来であるスムースな密度の濃いTSスタイルのサウンドをアウトプットします。特筆すべき、Gainコントロールは上述の特殊な回路設計により、50%付近より表情が変わりそれより先の領域ではディストーションサウンドのような豊かなサステインと、本来の持ち味である凛としながら、また同時に非常に艶のある倍音感を備えます。
大幅にトランスペアレント系エフェクターの概念を拡張した、このエフェクターはカバーできる範囲がLeqtique史上明らかに一番広く、セッションなどにおいて一台あればあらゆる仕事をこなしてくれることはもちろん、元来トランスペアレント系エフェクターのボイシングの難しさであった、”独自のサウンドを備えているか?”という問いにも完全な回答があり、高解像度で凛としながらも、密度が濃く散漫にならないサウンドは、ローゲイン/ハイゲインどちらにおいてもカッティング、ソロイング双方で生きてきます。是非、今までのLeqtiqueエフェクターではサウンドさせることのできなかった幾つもの音色をBerylでお楽しみください。
Shun Nokina
解説
コントロール
Berylのコントローラーは4つです。
- Volume:音量調整。Gainを最小にした際にはVolume最大でユニティ・ゲインくらいになります。
- Gain:歪みを調整。12時方向までは完全なクリーンからオーバードライブ、それ以降はディストーションの領域にまでゲインが上がります。
- Treble-Cut:高域をカットするフィルター。左に回しきるとカットしていない状態、右に回していくにつれカットされていきます。
- Low-Cut:低域をカットするフィルター。小さいノブです。Treble-Cut同様に時計回りにカットされていきます。
それでは動画での設定・音色について解説します。
演奏だけの部分が少なめですが、特徴は伝わると思います。
トークのBGMとしても鳴っていますので、再生ボリュームを上げれば色んなトーンが聴こえると思います。
Transparent Drive [演奏箇所:冒頭〜00:52]
- Volume
- 12(時方向)
- Gain
- 10
- Treble-Cut
- 12
- Low-Cut
- 12
Gainを10時方向、その他全てを12時方向にした設定です。トランスペアレント系をモチーフにしたという事もあり、高域の抜けの良さがあり和音の輪郭もはっきりしています。Treble-CutとLow-Cutをそれぞれ12時にすると、TSらしく中域にフォーカスされながらも低域の量感や高域の程良いギラつきと高い解像度を併せ持った、Leqtique的なバランスの良さを感じるトーンです。
冒頭ではブリッジ側ハムバッカーでのアルペジオ、途中からネック側シングルコイルに切り替えてリフを弾きました。どちらの音色・演奏スタイルにもフィットする「幅広く使える」セッティングです。
Fat Lead [00:12〜00:29]
- Volume
- 12
- Gain
- 1
- Treble-Cut
- Max
- Low-Cut
- 9
Treble-Cutを最大にした設定です。TS的な角の取れたマイルドさがあり、粘りのある歪み感が得られます。Low-Cutは弱めにしたので低域が強めの太いトーンになっています。TS系ながら低域も豊かで、同じLeqtiqueのMaestosoに通じるサウンドとも言えるでしょう。
ちなみにイントロ後半のリード・トーンについては後述のセッティングで解説します。
Soft Drive [02:14〜03:55]
- Volume
- 12
- Gain
- 9
- Treble-Cut
- 9
- Low-Cut
- 9
Gainと各フィルターを9時方向に揃えた設定です。クリーン・トーンに軽く歪みが乗った音色で、タッチの強弱がよく表れます。甘いトーンながら解像度の高さもあり、TSやトランスペアレント系へのLeqtique流解釈を感じさせます。
Clean Boost [06:31〜07:12]
- Volume
- Max
- Gain
- Min
- Treble-Cut
- Min
- Low-Cut
- Min
Gainと各フィルターを最小にした設定です。この状態では歪み感がなく、クリーン・ブースターとしても使える事がわかります。トランスペアレント系ではありますが、若干の色付けを感じます。レンジ感は原音とあまり変わらないのですが、中域〜中高域にフォーカスされるような印象を受けました。トーンが少しだけ明るくなるような効果を感じます。
Responsive Drive [07:13〜08:11]
- Volume
- 12
- Gain
- 3
- Treble-Cut
- 2
- Low-Cut
- 2
Gainを高めにし、ギター側の強弱に対する反応性をチェックしました。Berylの歪みは2段階に分かれており、Gainが12時までは1段目のオーバードライブ、以降は2段目のディストーション的な歪みが滑らかに加わる仕様です。ここではGainを3時にしたので「強く弾けばディストーション/弱く弾けばオーバードライブ」とダイナミクス次第で歪み具合と質感が変わるという効果が表れます。ただその変化は非常にスムーズで、例えば2台の歪みエフェクターを切り替えるような劇的な差は全く感じません。単純に「歪みの幅が広くてダイナミクスへの反応性が非常に高いペダル」と感じられるのではないでしょうか。画期的な歪みの仕組みながら、弾き手には全く違和感を持たせない。私はこの点に完成度の高さを最も感じました。
Sound Check [08:12〜08:39]
- Volume
- 12
- Gain
- Min-Max
- Treble-Cut
- Min-Max
- Low-Cut
- Min-Max
各ノブを動かしながら、音の変化をチェックしました。前述の通りGainはクリーン〜オーバードライブ〜ディストーションの領域をシームレスに変化させます。歪みは最大にしてもクラシックなディストーションといった感じで、モダンなハイゲイン系ペダル的なドンシャリ感やメタリックな質感ではありません。
Treble-CutとLow-Cutはそれぞれカット方向に効くフィルターです。どちらも最小にすると上下のレンジ感がかなり広く感じます。最大にしても極端なサウンドにはならないようになっています。Treble-Cutは高域のエッジ感/音の明暗を調整します。かなりギラついた弾けるようなトーンからスムーズでまとまった感じまで調整出来ます。
Low-Cutは低域全体というよりは重さ/もたつきを感じる帯域に効いているように感じます。右に回しきってもボトム感は残ります。ただミニノブは視認性が低いので演奏中やステージ上での操作には不向きと言えます。
Focus Dist [08:41〜09:14]
- Volume
- 12
- Gain
- 2
- Treble-Cut
- 1
- Low-Cut
- 3
Low-Cutを強めにしたリード向けの設定です。ローカットする事で歯切れの良さが強調され、軽やかさのある歪みが得られます。Leqtique製品の中ではRedemptionist(Red)に近いサウンドではないでしょうか。比較するとRedはある種ダークでスムーズなトーンを持っており、対してBerylは明るくて硬めな質感です。
ちなみに動画のイントロ後半でリードを弾いている部分はこのセッティングです。
Bright Drive [09:15〜10:16]
- Volume
- 12
- Gain
- 10
- Treble-Cut
- Min
- Low-Cut
- 10
Treble-Cutを最小にしたままGainを10時にしました。Nokina氏曰く「かなりトレブリーな音も出せる」との事で、その辺をチェックしてみました。ギターのピックアップはミックス・ポジションなのですが、十分歯切れの良さを感じられるブライトな音です。BOSS BD-2にも通じるジャキっとした質感があります。コード・ストロークを気持ちよくかき鳴らせる設定です。
Mellow Drive [10:17〜最後]
- Volume
- 12
- Gain
- 9
- Treble-Cut
- 2
- Low-Cut
- 11
軽く歪ませた設定です。TS的な味わいを感じさせます。色気を感じる中域の旨みにフォーカスされているトーンです。
総評
Berylというネーミングは筐体の色に基づいているとの事です。エメラルド・グリーンが美しいです。
私がLeqtiqueのペダルに興味を持ったひとつの要素はMAR (Maestro Antique Rivised) の独特な青色と、ハンドメイドにより1台ずつ模様の違うSwirlの質感でした。
動画でも語られているようにMARとBerylは色の出自に共通点があります。それも納得の透明感ある色合いで非常に好みです。
トランスペアレントやヴァーサタイルといった表現を謳う歪みエフェクターは多々あり、私もそのようなペダルをある程度弾いてきました。
今回のBerylはその範疇で頭ひとつ抜ける個性と完成度を誇るペダルと言えるでしょう。
動画での私自身の言葉を流用しますが「ここまで無理なく幅の広さを持つペダルはすごく珍しい」という印象に尽きます。
特に「無理なく」というのが大きなポイントで、全てのコントローラーが滑らかに効くのが非常に実用的だと思います。
各コントロールの可変幅が広くある意味汎用的ですが、かと言って没個性というわけではない点も特徴です。常に独特のソリッド感というか、Nokina氏の言う「凛とした」質感があります。
そしてこのペダルは使えるポイントが幅広い分、使う人によって設定や用途が変わる事が容易に予想出来ます。ユーザーそれぞれにフィットするという意味で、トランスペアレント/ヴァーサタイルという表現をLeqtique流に解釈したモデルとも言えるでしょう。
「凛としたサウンド」を是非味わって欲しいと思います。
Leqtiquq Beryl 販売リンク | デジマート
関連記事
- Leqtique Redemptionist レビュー
- Leqtique 9/9 レビュー
- 「L’」4機種レビュー:Roch, MAT, Red & 9/9【Shun Nokina(Leqtique)】
- Prev: 【ハイブリッド・マルチ】NUX | Cerberus
- Next: NUX | B-2 ワイヤレス・システム