【レクティーク初のディレイ】Leqtique「EDM」レビュー
- 2018-07-28 (土)
Photo by Yuichiro Hosokawa
Leqtique流の味付けが効いたディレイ
Leqtique初のディレイ「EDM」を紹介します。
これまで主に歪み系を発表してきたブランドが放つ、初めての空間系ペダルです。
ジャンルとしてはPT2399を用いたデジタル・ディレイ。しかしShun Nokina氏の設計により個性的なモデルに仕上がっています。
前回のBeryl発表時と同じく、私Jake Cloudchairと細川雄一郎氏(ライター/エフェクター研究家)がLeqtiqueの本拠地・北海道に招かれました。
そして今回は更に特別ゲストとして戸高賢史氏(ART-SCHOOL, MONOEYES, Crypt City, Ropes)も加わってくれました。
試奏やトーク、そしてドキュメンタリーを交えた盛り沢山の動画を是非お楽しみください。
Leqtique “EDM”【Delay】戸高賢史+Shun Nokina+細川雄一郎+Jake Cloudchair
Credit
- Shun Nokina
- エフェクターブランド Leqtique/L’ 代表。製品の設計・製作を手がける現代の日本を代表するエフェクタービルダーの一人。
- 戸高賢史
- ART-SCHOOL, MONOEYES, Crypt City, Ropesと様々なバンドで活躍するギタリスト。Phantom Fx名義で自らもエフェクターを制作。
- 細川雄一郎
- ライター/フォトグラファー/ギターテック/エフェクター研究家。エフェクターのコレクターとしても世界に名を知られた存在である。
- Jake Cloudchair
- ギタリスト/ビデオグラファー。エフェクターのデモ動画を多数制作し、国内外の高い評価を得ている。
- Music / Movie
- Jake Cloudchair
- Photo
- 細川雄一郎(公式写真)
- Jake Cloudchair(スナップ)
- Thanks to
- Fujigen
- 荒井貿易
- Comawhite Custom Cable
使用機材リスト(デモ演奏)
- ギター
- FGN NST200
- FGN NSG100
- FGN NTL11
- ギター・アンプ
- Kemper Profiler :(使用モデル:Fender Twin Reverb & Shure SM57)
なお公式ウェブサイトLeqtiqueshop”EDM”特設ページではNokina/細川両氏のインタビューが掲載されています。
マニアックな話が繰り広げられていますので、こちらも是非。
Leqtiqueとして、初の歪み系以外のエフェクターとなる本作EDMはコンパクトエフェクターにおけるデジタルディレイ設計のメインストリームと言うべき、PT2399チップの遅延回路を限界まで研究し、本来この魅力的なチップの持っているポテンシャルを最大限まで引き出した上で、Leqtique – Berylで実績の高いLinear Technology社のLT1213超高解像度オペアンプを使用した原音とのミックス回路に組み込むことで、ユニークな高解像度かつウェットな遅延音のアウトプットに成功しました。
この回路アイデアは、PT2399言い換えるならば市場の大多数のコンパクトエフェクターのデジタルディレイのものと同様ですが、一意的に音色決定する各部の定数設定は定石的な数値が確立されているため、細部まで研究しなければ大きな差異を出すことの難しいフォーマットでした。しかしながらその中で、影響を大きく与えるべき定数に関してかなり大胆な設定を行なった上で全体のバランスを整えることにより、今までの市場に存在する同様のコンパクトエフェクターのデジタルディレイとは大きく異なる音色を備えています。
ディレイに限らず空間系のエフェクター、と考えた時にまずLeqtiqueのデザイナーとして自分がすべきと思い浮かぶのは、今まで歪み系で培ってきた超高解像度ないしは超Hi-Fiな心臓部の素子の活用を直接的なアドバンテージとして活かすことでした。まずはLevelコントロールを左いっぱいに回し0とすることで、遅延回路が原音をそのままアウトプットする回路に影響しないため、このEDMがどれだけ原音の再現度が高いか体感していただけると思います。LevelコントロールはEDMの持つディレイサウンドをどれだけ原音にミックスしていくかというシンプルなコントロールなのですぐに直感的に最適なポジションを発見することができると思います。また、RepeatないしはDelayコントロールにも同様のことが言え、Repeatは3時方向近辺までは遅延された音が何回反響するか、そしてどの程度の減衰の仕方をするかを決定します。0では1回、3時方向では∞に近づいていきます。Delayに関しては、0にすることで50msのダブリング効果から、中間部の100~250msではスラップバックディレイ、またPT2399フォーマットとしては最大レベルのMax500msの遅延音をアウトプットします。
ディレイとして一般的な上述のコントロールは操作性こそ非常に直感的に操作することが可能ですが、大胆な定数設定により原音重視で太く、湿り気のある遅延音であることがすぐにご理解いただけると思います。多くのPT2399フォーマットのデジタルディレイでは遅延音、特にローエンドに加工感を持たせて軽快なサウンドに仕上げているものが多いですが、本機は逆に遅延音をフラットレスポンスに近いものとし、アナログディレイのそれともまた異なる、高解像度ながらウェットな音像に仕上げてあります。
他方、上記の説明はミニコントロールであるAmbient=0の場合であり、このコントロールは単にフィルターを構成して音を籠らせるだけでなく、Delayを長く設定した場合にTHDが悪化するPT2399の性格を補償するスタビライザーの役割も果たします。音楽的にはまず他3つのコントロールを設定した上でAmbientコントロールを右に回していただけるとすぐにアイデアに触れることが可能で、Levelコントロールを下げた時は音像はそのままに遅延音だけが相対的に下がるのと異なり、音量、減衰の仕方も少し下がりながら、音色もフラットレスポンスで原音をそのままアウトプットいうEDMの一つの性格とは真逆の、より空間に溶け込むような謂わば、Caveタイプのリバーブエフェクトをイメージしていただけると近いような音色となります。実用的には、早いパッセージを歪みエフェクターとともに弾くときに、ショートディレイをリバーブライクに活用する時はより効果的であったり、長いDelay,多めのRepeatと合わせて、Ambientも回し幻想的な音色を作ったりと、本機にある種の環境音楽(Ambient)を誘起させる全く別の音色の側面をもたらした不可思議なコントロールとなっています。
最後におまけとして、Repeatが無限領域を超え始めると、遅延音が崩壊し始め、発振し始めますが多くのデジタルディレイがアナログディレイの発振音に近づけるのとは異なり、EDMの持つ太く存在感の強い減衰音由来(Ambient=0を推奨)で、クラブミュージックや”EDM”で聞くことのできるような発振音を発見できます。まずはRepeatを右に回しきり、その後発振したのちにDelayコントロールを0に、そしてまた右に回し切ったり戻したりとすることで演出されるユニークな発振音を是非、新しい音楽の創造のアイデアとしてご活用ください。
Shun Nokina
解説
コントロール
EDMのコントローラーは4つです。
- Level:ディレイの音量調整。最大で原音と同じくらいのバランスになります。エフェクト音のみの出力は出来ません。
- Repeat:ディレイの回数。3〜4時あたりから発振し始めます。
- Delay:ディレイ・タイム。最長500ms。
- Ambient:ミニ・ノブ。ディレイ音をフィルタリングします。
それではデモ演奏での設定・音色について解説します。
どの設定もLeqtique/L’の歪み系エフェクターの後にEDMを繋ぎ、アンプへインプットしています。(センド/リターンを使った接続は今回やっていません)
冒頭の曲に入っているギターには全てEDMをかけています。最初のループ音もEDMの発振音です。
なおLeqtique工房での試奏については詳細を省きます。
Sequential Delay [演奏箇所:2:54〜3:34]
- Level
- 2(時方向)
- Repeat
- 12
- Delay
- 11
- Ambient
- Min
まずはディレイ・タイムを符点8分音符に設定し、シーケンス的なフレーズを弾いてみました。
Berylをブースターとして使い、ブライトめな音色にしています。
“Ambient”は最小、つまり最もフィルタリングが弱いクリアなトーンです。
原音に近い素直なディレイ音ですが、ほんの少しトーンに落ち着きがあって太さを感じさせるように思いました。
エフェクト音の歪み感が少ない高品位なサウンドです。
Delay for Crunch [3:35〜4:10]
- Level
- 2
- Repeat
- 11
- Delay
- 2
- Ambient
- 12
歪んだトーンに合わせてみました。歪みはL’ Rogerでクランチ程度にしています。
ディレイ・タイムは4分音符、”Ambient”は12時です。
「原音に影がつく」ような効果を感じます。ディレイ音の輪郭がとても柔らかく、歯切れ良い演奏に対して邪魔しません。
アナログ・ディレイに通じるトーン、かつ倍音感が少なく原音に馴染みやすいエフェクト音です。
Sound Check [4:11〜5:27]
- Level
- 12〜Max
- Repeat
- Min〜Max
- Delay
- Min〜Max
- Ambient
- Min〜Max
各ノブを動かしながら弾き、効果を確かめてみました。
ディレイ・タイムは最小でダブリング的な効果、最大で500msとなっています。
“Ambient”の目盛りは視認しづらいですが、その効果は聴きとりやすいと思います。
“Repeat”を上げた発振音も特徴的です。低域にドスの効いた迫力あるエフェクトが得られます。
なおオフにした瞬間にディレイ音は消えます。エフェクト音を残す所謂「トレイル」機能はありません。
Warm Slap Delay [8:48〜9:16]
- Level
- 3
- Repeat
- 3
- Delay
- 8.5
- Ambient
- Max
6連符くらいのショート・ディレイで、”Ambient”は最大にしました。
原音はCLHD (Caeruleum Lightdrive High Definition) でクリーン・ブーストしています。
スラップ・ディレイとしてはかなり柔らかくクリアなトーンです。
スプリング・リヴァーブ的な響きもあって幅広く使える設定だと思います。
Delay for Lead [9:17〜10:10]
- Level
- 3
- Repeat
- 2
- Delay
- 10
- Ambient
- 12
9/9で歪ませてリードを弾きました。
ディレイ・タイムは2拍3連くらいです。”Level”も”Repeat”も高めの設定で、程良く原音と絡んでまろやかな余韻を感じさせます。
“Level”や”Repeat”を下げたり”Ambient”を上げれば、もっとさりげない効果を得る事も出来ます。
総評
Photo by Yuichiro Hosokawa
まず外観ですが、これまでのLeqtique同様に”Swirl”模様ながら、淡い色合いが新鮮です。エフェクト・ペダルとしては珍しいくらいの繊細な色使いではないでしょうか。
歪み系との差別化という意味でも、他のLeqtiqueペダルとは異なる質感を持っているように思います。
次に基本的な音色について。PT2399を使ったデジタル・ディレイは設定によりエフェクト音が若干歪んだりする事もあるようですが、このEDMはとてもクリアだと思います。
クリアなだけでは硬い印象のトーンになりがちですが、重心が低く角が取れた柔らかめの音色になっている事で高品位かつさりげない演出が出来るディレイに仕上がっています。
“Ambient”コントロールは簡単に言えばディレイ音のトーンを調整するものですが、実際の効き方は「存在感を変える」という感じが近いと思います。
最小にすればディレイ音がくっきり聴こえますし、上げていくにつれ輪郭がにじんで影のような存在になります。
例えるならばLeqtique CLHD/L’ CLDの”Definition”コントロールのような効果を感じました。
“Ambient”は実にShun Nokinaらしい音楽的なコントロールだと思います。
コントロール表記が無かったり”Ambient”が視認しにくいので、個人的には細かく設定を変えるよりかけっぱなしで使いたいと思いました。
常時オンでも演奏の邪魔になりにくく、ある意味リヴァーブ的な感覚で使えます。奥行きを加える空間演出用ディレイとして、かなりクオリティが高いです。
上記のように高品位なディレイとして使える一方、発振させた時には別人格のようにノイズ・メイカーへと豹変します。
動画の冒頭で聴けるノイズのように低域に厚みがあり、キックのようなビートさえ感じさせます。
各ノブを動かして暴れさせるのも楽しいですし、飛ばし系エフェクトが好きな方にもお薦め出来ます。
かけっぱなしで使える空間演出、そして発振時の迫力あるノイズ。この全く異なる用途がそれぞれ魅力的で、ディレイ・ペダルに求められる要素を併せ持っていると思います。
Leqtiqueファンには勿論、良いディレイ・トーンをお探しの方にも是非試してみて欲しいです。
Leqtique 販売リンク | デジマート
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