Noel π【限定生産ビッグマフ・モディファイ】
- 2016-06-07 (火)
Noel流モディファイで生まれ変わったビッグマフ
ハンドメイドエフェクターブランドNoelから限定生産リリースされた「π」をレビューします。
これはエレクトロ・ハーモニクスの定番エフェクターBig Muff Piをモディファイしたものです。
Noelのオリジナル・モデルCornet(レビューはこちら)もビッグマフにインスパイアされた素晴らしいペダルでしたが、今回は現行の実機に手を加えるという事でまた一味違うアイテムになっています。
Noel πは元々2015年12月に黒い筐体のものが限定リリースされていました。反響が大きかった為に今回再生産される事になり、色も前回と対を成すように白を基調としたフィニッシュへ変更され、モデル名もNoel π – blancとなりました。
黒のデザインも良いですが、白になって一層インパクトが増したように思います。
それではまず動画をご覧ください!
Noel π | Modified Big Muff
Credit
- Music / Movie / Cast
- Jake Cloudchair
- Thanks to
- キョーリツコーポレーション
- Fujigen
- OKADA International Inc.
- TC Electronic
- PURUS Picks
- corgi-corgi
- Garret Works
-Noel π-
Cornetの設計思想と同様にヴィンテージ志向のサウンドを目指すものではなく、
あくまで現行モデルのサーキットが持っている本来の力を引き出すようなモディファイを行っています。
基本的に現行品をベースにということで、トランジスタなどの心臓部分には手をいれず、
コンデンサ・クリッピングの変更によるモディファイを行っています。
シグナルラインのコンデンサ全てを変更し一部にはCornetでも使用している
Marollyのフィルムコンデンサを使用し、音質・解像度を向上し、各ゲインステージやトーンスタックのフィルタリングを調整することで、
独自のピーキーなトーンコントロールを普段BIGMUFFを使用しないようなユーザーでも使いやすい状態に調整しています。
トーンノブ0%の状態では、従来のMUFF同様ローエンドよった迫力のあるトーンに、
トーン100%ではミッドレンジを残しながら高域までしっかりと伸びるようなトーンとなっています。
現行モデルの持つ重心の低いずっしりとしたサウンドや、
しっかりと高域まで伸びていくサスティンを余すことないようアウトプットできるよう調整を行いました。
解説
それでは動画の詳細について解説します。
使用機材
デモで使用した機材は下記リストの通りです。
- ギター
- FGN NST200
- FGN EFL-FM (with DeMont PU)
- FGN JIL-AL-R-HH
- アンプ
- Koch Studiotone 40XL Head
- ベース
- FGN NJB200
- Volume
- 12 (時方向)
- Tone
- 12
- Sustain
- 12
- Volume
- 12
- Tone
- 7
- Sustain
- 2
- Volume
- 12
- Tone
- 5
- Sustain
- 3
- Volume
- 12
- Tone
- 3
- Sustain
- 3
- Volume
- 12
- Tone
- Min – Max
- Sustain
- Min – Max
- Volume
- 12
- Tone
- 5
- Sustain
- 5
- Volume
- 1
- Tone
- 5
- Sustain
- 5
- 【ファズ】Noel | Cornet【revuとの徹底比較】
- 【マフ系ファズ・レビュー】One Control Baltic Blue Fuzz
- 【くまファズ】KMA Machines | Fuzzly Bear & Minos
Basic Setting
まずは全てのノブを12時にした設定です。
図太い低域、粒の粗い歪み、豊かなサステイン、紛れもなくビッグマフですね。
そして飽和感も十分にあるのですが、その割にコントロールしやすいというか、歯切れの良さを感じます。
Big Muffの現行モデルに比べ、質感がかなり異なります。現行モデルがのっぺりした感じなのに比べ(まあマフはそういうものだとも思うのですが)、πは一音々々が立っていて存在感があります。Noelのイワタ氏曰く「クリッピングの変更でよりファズらしい音質に。コンプ感を抑えて反応性を高くした。」との事ですが、それがこの違いに繋がっているのかも知れません。
Fat Tone
Toneを絞り切った設定です。
πのToneは「使える範囲でスムーズな変化をするように」設定されています。Toneを絞ってもこもる感じはなく、微調整と言っても良いくらいの効き方です。
後半では豊かなサステインを活かしてメロディを弾いています。この伸びやかなトーンもマフらしいと思います。
Bright Tone
今度はToneを全開にしました。
この設定でも極端な変化はなく、Toneにはあくまで微調整という役割を持たせている意向が感じられます。
ここでは歪んだ状態でアルペジオやストロークを弾き、各弦の分離感や解像度をチェックしています。
かなり歪んでいますし飽和感もあるのですが、各弦の輪郭を損なうことなく表現出来ています。
On Bass
低域が豊かなファズなので、試しにベースにかけてみました。
ギターよりも毛羽立ち感がかなり強く感じます。派手に暴れる音色ですが、ボトムがしっかり残っているのでベースにも使えると思います。
Big Muffl Pi | Noel Pi
ここで現行モデルのBig Muffとπを同じ設定で鳴らして比較してみました。
ここではTC Electronic Ditto X4 Looperにフレーズを録音しループ再生しながら、各ペダルのツマミをいじっています。
まずは全てのノブを12時にして比較。基本的な音色の違いがよく分かります。現行マフも決して細い音のペダルではありませんが、πの図太さは別次元といえますね。
ちなみに動画では両ペダルの音量を揃えてありますが、πの方がかなり音が大きいです。現行マフのVolumeが3時くらいで、πの12時と同じくらいの音量になります。
次にSustainを最小から最大に動かします。どちらも最小でクランチ程度に軽く歪んでいて、8時あたりからもうファズらしい歪みになります。現行マフはSustainを上げるに従って毛羽立ちが派手になっていく印象なのに対し、πはゆるやかに密度が上がっていくような変化をします。
続いてToneを12時から最小へ・そして最大へと動かしました。現行マフのToneは極端なくらいの効き方で、動かしているとかなりピークを感じるポイントがあります。対してπのToneは非常に滑らかな変化をします。効き幅は狭くなっているので極端な音色にはなりませんが、どの位置にしても安定感があります。太さ・抜けの良さ・キャラクターを保った上で微調整する感じです。
なお動画には収録していませんが、前バージョンの黒いπも手元にありましたので比べてみました。パーツはほぼ同じなので音色も基本的に変わりませんが、白い方が僅かながらゲインが高く高域が伸びているように感じました。しかしこれは個体差という程度の違いかと思います。
Hi Gain Rhythm
SustainとToneを最大にした設定です。
ここではハムバッカーをマウントしたテレキャスター・タイプのギターを弾いていますが、エッジ感を強調する為にブリッジ・ハムバッカーをコイルタップして使用しています。
コイルタップしても十分に太さを感じさせる音色です。そしてゲイン最大でも破綻しない解像度を保っているのが分かります。
Hi Gain Lead
前パートと同じ設定から更にVolumeを上げ、アンプを少しプッシュしてリードを弾きました。
かなりゲインが高い状態なのですが、ナチュラルといってもいいトーンだと感じます。
ピッキングのニュアンスも出ていますし、弾き方次第で暴れさせることも歌わせることも出来ると思います。
総評
ビッグマフをベースにしたエフェクターはたくさんありますが、特定の年代をモデルにした所謂ヴィンテージ志向のものが多いと思います。
Noel πは実際に現行モデルを用いているという事もありますが、独自の方向性を示したペダルだと感じました。
音色の印象は明らかにビッグマフなのですが、どの時代のモデルとも言えない個性を持っています。解像度やノイズの少なさ(マフにしては比較的ローノイズ、というレベルですが)といった点はモダンな仕上がりですね。そして同ブランドのCornetにも表れている気品を感じます。激しいトーンでありながら繊細さを併せ持つというのはNoelの持ち味と言って良いでしょう。
今回このNoel πの動画を制作するにあたって、Noelのイワタ氏に色々と話をうかがいました。
そこで印象的だったのは「制限を設ける事でより良いものを。モディファイといえど余計な事はしたくない。」という話でした。
このモディファイは見た目の印象こそ大きく変わりますが、回路構成つまりパーツの点数はオリジナルと同じとの事です。
スイッチやノブ、新しい機能を追加する事もなく、あくまでオリジナルのフォーマットを崩さずにモディファイしています。
パーツの変更のみでここまで印象を変え、クオリティを上げる事が出来るのはビルダーのセンスという他ないですね。
「今回のペダルのコンセプトをシンプルに言うとすれば?」という私の質問にイワタ氏は「いちエフェクターファンとして、こうあって欲しいなと思う事をやりました。」と答えました。
一時期に比べ近年はモディファイというジャンルのリリースが少なくなった気がします。加えて昨今は既存ペダルにほんの少し手を加えただけのものが高額で売られるといった事例もあり、もしかするとモディファイに対するネガティブな印象もあるかもしれません。
このペダルはそんな状況の中で誠実なビルダーが提示したひとつの答えではないでしょうか。控えめながらはっきりと筐体に記された”Remade in Japan”の文字を見ながら、私はそんな事を感じました。
素晴らしいペダルです。数量限定なので機会は限られますが、是非弾いてみて欲しいです。