雪深き森の庵にて

デヴィッド・シルヴィアン (2003-10-22)
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David Sylvianが発足したレーベル、Samadhi Sonudから最初にリリースされた自身のソロアルバム。
レーベル名にあるサマーディとは、仏教における「三昧」を指すサンスクリット語であり、悟りに至る道を志す者が集中を高める事によって得られる、内面の調和がとれた状態を表す。

作品全体を通してリズムを感じさせるパートが少なく、ゆるやかな音の波に身をゆだねてしまいたくなる。空間を埋め尽くす事を拒むかのような、風通しのよい音世界。
その世界の主人は歌である。絶対的な存在感を放つ声。

冒頭、夜風に揺られる音のカーテン。その向こうから際立った輪郭を伴って彼の声が現れる。その瞬間を聴く度に僕は溜息を漏らし、彼の世界へ連れて行かれてしまう。
Derek Baileyとの共演曲でもその世界は揺るがない。構築へ向かう道をことごとく避けていくような、緊張感に満ちたギターはとても伴奏と呼べるものではないが、そこに乗る歌は端正な表情を崩さない。そして不思議と調和さえ感じさせるのだ。
外界と対立する事によって生じる違和感を扱うのではなく、内面の統合による「和」を表現したいという意識が作り手にあったのではないだろうか。
そう感じさせるのは、自らの庵に「三昧」と名付けた事からも匂ってくるが、それにも増してDavid Sylvianの歌・演奏(そしてエディットされた素材でさえも)が虚飾を廃した響きである事、そこにエゴからの脱却へ至る過程を体現しているように思えてくるからである。

しかしここに秘められた想いについて語るよりもまず、ただただ身と心にその音を浴びて虚脱したくなる作品である。何も考えず心地好く浸れる。
ジャケットに描かれているように冬を感じさせるこのアルバムは、静かな雪の夜のように心を落ち着かせてくれる。

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