無常

凄まじい速度。

演奏の速さについて、ではない(いや、それ自体も目茶苦茶に速いのだが)。
そこに込められた氣が目まぐるしく弾け飛び、また堕ちて沈む。その速さときたら尋常ではない。
そこに生まれ落ち、そこに死んでゆく音塊。
人生は「今」という瞬間の連続であるというが、阿部薫はこんなにも濃密に「今」を生きていた。

この作品にはアルトサックスとバスクラリネットによる、単独即興演奏が収められている。
生身の人間が鳴らす生の(電化されていない)楽器が鳴っているのだが、ここではフィードバック・ギターやシンセ・ノイズの如き凄まじい音も聴ける。
演奏者とは楽器を自身の肉体のように扱う事を目指すものだが、
ここに鳴り響いているのは肉体を通り抜け、心さえも突き抜け、己の魂へ、
そして世界のすべて(或いは無)に近付き同化しようともがく音に聴こえる。
だからこの音は恐ろしく孤独であり、孤高であるが故に普遍的でもある。
激しくて悲しくて寂しい音。しかし、私はそこに喜びと希望の微かな光を見る。

阿部薫の音は美しい。

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